飛駒三山
飛駒三山とは、佐野市北部の飛駒盆地を取り囲む要谷山(ようがいざん)、のこぎり山、多高山(たこうさん)の三つの山のことです。超ローカルな呼称らしく、"飛駒三山"で検索しても、今のところ「やまの町桐生」の要谷山の項と飛駒の自然を守る会のサイトしか出て来ません。
三山と聞けば、これは三山駆けをせねばなりますまい(^^)。のこぎり山と、のこぎり山〜多高山の稜線には一般登山道がありませんが、ネットで調べるといくつかの山行記録があり、歩き通せそうです。低山ながら距離は長く、正月以来の山行のブランクでなまった身体にちょっと刺激を入れるのにも良さそう。天気の良い日を見計らい、休日出勤の代休を取得して出かけて来ました。
桐生を車で発ち、桐生川上流の梅田湖から老越路峠(おいのこうじとうげ)を越えて、飛駒に入る。青空が広がって、三山がよく見える。根古屋森林公園の駐車場に車を停める。今日は冬のしかも平日なので、公園内にはさすがに人の気配はないが、良く整備されていて、春〜秋の行楽シーズンには賑わいそうな所だ。今日は暖かいので、重ね着して来たフリースのインナーパンツは脱いで出発する。
根古屋森林公園に入り、「いけづきの道」という道標に従って林間のキャンプ場を通り抜け、山道を登る。大きな針葉樹(なんだろう)の林がなかなかきれいだ。
「こんぴらの道」を左から合わせた先に、少し荒れ気味の金比羅宮の小さな社殿があり、傍らに金比羅の妙泉という泉がある(ただし水たまりで、飲めるものではない)。さらにひと登りで、城砦の遺構らしい段差を越えて要谷山の頂上に着いた。樹林に囲まれて展望は多高山が望める程度だが、ベンチが設置されていて休憩には良い所だ。
頂上から西へ一段下がると浅間大菩薩が祀られている。ここで西へ下る「せんげんの道」と稜線を辿る「するすみの道」に分かれる。するすみの道に入り、冬枯れの雑木林の尾根をしばらく辿る。杉林に入って石祠を過ぎると、道は左斜面を下って、やがて林道に出る。林道をずっと辿ると元の森林公園入口に戻るが、途中で右に分岐する林道に入り、三面コンクリートの沢沿いに下って、鳥谷戸(とりがいど)の集落に出た。
次はのこぎり山だ。彦間川を渡り、クロマツの大木(推定樹齢400年)がある参道を通って永台寺に向かう。門前の説明板によると、永台寺は奈良時代天平年間に行基が開山草創、現存する仁王門は文禄2年、本堂も天保年間の上棟とのこと。阿吽の仁王像のある仁王門をくぐり、のこぎり山が背後に控える本堂の前に出た。
ここからのこぎり山にどう登るかは、事前の情報がない。取り敢えず、本堂左手のコウヤマキの大木(これも推定樹齢400年)の横を通って、杉林の中に入る。とにかく上を目指すと雑木林になり、岩場に突き当たる。ここは直登できないので左に回り込むと、細いながらも明瞭な踏み跡があった。
これ幸いと踏み跡を登って行くと尾根に出て、石灯籠と石祠があった。石灯籠は安永四?年と刻まれた古いものだが、石祠の中には秋葉三尺坊大権現の新しいお札が祀られている。踏み跡はこの石祠への参道だったようで、この先に道はない。しかし、右側斜面が伐採された赤松林の尾根で、日射しを浴びて快適に登ることが出来る。振り返れば、要谷山、飛駒の里、多高山が一望だ。
伐採地が終わると杉、松、雑木に覆われた尾根になる。そこはかとなく踏み跡があり、藪も薄い。露岩と赤松が点在する急な尾根をひと登りすると、石祠のある小平地に出た。石祠の屋根の前面に「宮神山」と刻まれているのは右書きだろう。台座には「寺沢、黒沢、鳥谷戸」と麓の集落の名が刻まれていた。木立に囲まれて展望は限られるが、西には遠く鳴神山、東には眼下に山麓の黒沢の集落が見える。
雪が残るピークは風当たりが強く寒いので、休憩もそこそこに先に進む。山名のとおり、露岩の多い痩せた尾根の小さなアップダウンが続く。ちょっとした岩尾根を攀じ登って、のこぎりの中央のピーク(取り敢えずここでは主峰と呼ぶ)に登り着いた。主峰も樹林に囲まれて展望に乏しい。木立の間から、かろうじて遥か遠くの野峰を眺めた。
主峰から左に折れて、立ち木を摑みながら急な斜面を下る。ここはかなり急なので、補助のロープがあった方が良かったかも知れない。次のピークも岩場があるが、ここは左に巻く踏み跡がある。626m標高点の位置は気付かずに通過してしまった。
ようやくギザギザの稜線も終わって、気楽に歩けるようになる。そろそろお腹も減って来た。古い石祠を過ぎると、行く手の尾根を送電線が横切っている。あそこまで頑張ろう。前方ななめ右の方向には、ずいぶん奥の方に丸岩岳がどっしりとした山容を見せている。こちらから見ると、奥山の雰囲気があるなあ。
ようやく送電鉄塔に到着。杉の植林地の中で眺めはないが、風は当たらないので休憩には丁度いい。ゆで卵をつまみに缶ビールを飲み、餅入りスープを作って食べる。
送電鉄塔から杉林の尾根を少し辿ると、野峰から多高山へ続く主稜線上のピークに出た。ピークといっても、杉林の中に何かの境界標石があるだけの、全く特徴のない場所だ。ここから多高山へ南西に向かうところを、間違えて西に落ちる尾根を暫く辿るが、すぐに気が付いて、斜面をトラバースして正しい尾根にのる。
暫く進んでふと気が付くと、ザックのベルトに掛けていたデジカメがない。さてはさっきのトラバース(ちょっと灌木を漕いだりした)で落としたか。ザックを置いて、慌てて拾いに戻る。道に迷っている途中で落としたので、来た道を戻るのは難しかったが、運良くデジカメを発見。良かったー。
尾根道を下ったところには細い峠道が通っていて、傍らに「飛駒村有林」と刻まれた石柱が立っていた。先程の騒ぎで時間をロスしたこともあり、そろそろ日没の時間が気になって来て、先を急ぐ。杉林や雑木林に囲まれて、ところどころ木立の間から茫洋とした野峰の山容が見えるだけの、しぶーい尾根歩きが続く。
どこが尾根だかわからない平らな杉林をしばらく進むと、624.6m三角点でR.K氏の標識を発見。こんなところまで標識を付けて歩いているR.K氏とはどういう人だろう。この先で送電鉄塔を過ぎると左手の眺めが開けて、皆沢の集落や鳴神山から大形山へ長く尾を引く稜線が見える。天気は下り坂で、空は既に寒そうな雲で覆われている。
このあたりから群馬・栃木県境の稜線になり、屋根だけの潰れた石祠を見る。尾根上は小さなアップダウンが多くて、行く手の多高山の台形の頂上はなかなか近づいて来ない。急な斜面を灌木を頼りに攀じ登ると、「MHC 535m」という標識のあるピークに着いた。県境はここまで。一汗かいたので休憩する。冷たいミカンが美味しい。
ここからも小さなピークをいくつも越えて行く。さすがに疲れて来た。途中でホタテ貝を立てたような面白い形の岩を見る。前仙人ヶ岳のつなぎ石と同じような地質なのかしらん。登り着いたピークから振り返ると、のこぎり山や通過した送電線、遥か遠くに野峰や丸岩岳が見えた。ずいぶん歩いて来たものだ。
杉の植林に覆われた鋭峰に登ると、稜線は東に曲がって一旦下り、多高山に向かって最後の急坂となる。縦走の最後にこういうのがあるとこたえますな。空は暮れ始め、西の空はきれいに夕焼けしていた。老越路峠からの登山道を合わせて、ようやく最終目的地の多高山に辿り着いた。
多高山の頂上には崩れた石祠、天明元年と刻まれた石灯籠、二等三角点とアンテナ塔がある。東に眺めが開けて、飛駒の里が俯瞰できる。標高の割には高度感のある山頂だ。ゆっくりしたいところだが、今日は多高山まで歩き通せたことで満足。麓にもぽつぽつ明かりが灯り始めたので、暗くならないうちに下ろう。
頂上から南東の尾根を下ると石祠のある岩場があり、さらに麓の眺めが良い。この先の岩場の下りは結構危ない。巻き道もあるようだが、先を急いでいたため見逃したようだ。
あとはハイキング向きの雑木林が快適な尾根道となり、山腹をジグザグに下ると、ゴルフ場の駐車場に降り着いた。ゴルフ場のレストハウスの水銀灯には明かりが入り、従業員の人たちの車が帰って行くところだった。日が暮れる前に下山できて良かった。
車道を歩いて森林公園に置いた車まで戻る。それから桐生♨湯ららに向かい(開設5周年記念で入館料割引中)、よく温まって筋肉痛になりそうなところをほぐして帰った。