高岩
今日の山行は、アプローチは(高速を利用すると)交通至便、行程も短めなので、のんびり出かける。しかし、山を歩いている間の緊張感はなかなかのものでした。
上信越道を碓氷軽井沢ICで出て信号を直進すると、行く手に高岩の二つのピークが高々と聳える。この道はICから軽井沢へのアクセス道路なので、車がビュンビュン通っていて、路側に駐車できるような場所はなかなか見当たらない。かつては西毛野外センター(以下、センター)に駐車できたようだが、閉鎖されて久しく、今は使えない。少し先の右手に緊急待避所があり、そのすぐ先に右に分岐する細い林道がある。ここが下山口になるようだ。林道に入ると数台分の駐車スペースがあり、車を置く。
アクセス道路を歩いてICの方向へ少し戻る。センターへの道の入口は枯れ草に茫々と覆われて、高岩登山口と書かれた小さな赤いプラスチックスのプレートがなければ分かりにくい。自然に戻りつつある道を登ると、すぐにセンター跡地で、建物は取り壊されたのか全くなく、敷地を囲う柵と傾斜地に刻まれた段々だけが痕跡として残っているだけだ。
センター跡地の裏手の杉林を登ると、恩賀登山口からの道を合わせ(道標有り)、大岩の下に祀られた御岳大権現の朽ちた祠を見る。この先の岩の上にも周光霊神と刻まれた石碑があり、宗教的雰囲気がする。杉の木立を通して雄岳の岩峰が頭上に聳えているのが見える。杉林を抜け、すっかり葉の落ちた雑木林の急な斜面を登ると、雄岳と雌岳の威圧的な岩壁に囲まれたガレた涸れ沢の登りになる。小さなルンゼにしみ出した水が凍って黒く光っている。風がすごく冷たい。
鞍部へはわずかな時間で登り付き、寒いので休まずに右の雄岳に向かう。雑木林の斜面を登ると雄岳の岩峰の基部に到着。見上げると雄岳のピークは圧倒的に高い岩壁の上だ。これに上がるのかー。基部で分岐した道は右へ行く。岩壁を穿つようなトラバース道の途中で、滝壺のように抉れた段差がある。上を見ると氷柱が下がっており、そこから垂れた雫が下で氷となって盛り上がっている。また、岩壁には不動尊と刻まれた石碑が掲げられている。氷で滑らないように注意して通過する。
岩壁を回り込むと、鎖の下がった暗いチムニーが現われる。「群馬300山」で「妙義山系に数多い鎖場の中でも上級」と記述されている難所の始まりだ。下から全貌は見えない。最初、いきなり垂直な鎖の登りだが、すぐ上にテラスがあり一息入れる。次は斜めになった岩の裂け目を鎖を頼りに登る。素手で摑む鎖が冷たい。その上のテラスで手を擦り、息を吹きかけて温める。最後の垂直な鎖のチムニーが難物だ。最初はバックアンドニーで登ろうとしたが、チムニーが狭く、ザックが邪魔だ。デジカメだけをポケットに入れて、テラスにザックをデポする。ここが登れるのか、ちょっと弱気になって来る。振り返ると両側を岩壁に囲まれた狭い視界の中に雌岳のピークが日を浴びて明るく聳えている。気を落ち着けて再びトライ。チムニーの奥に入らず、むしろ外に近いスタンスを使って登る。そして、なんとか鎖場の上に這い出た。
鎖場から少し登ると狭いコルに出る。まず、左のピーク(北峰)に登る。摩利支天と刻まれた石碑がある。ますます風が冷たく、長居はできない。雄岳の主峰の写真を撮ってコルに戻る。
コルから雄岳主峰へは、数mの距離だが、スラブに土がへばりついたような嫌な急登がある。岩には染み出た水が薄く凍っていて、土の部分は霜柱。ここの凍結が広がるとかなり危なそう。か細い木の根を摑んで、バランスをとってそっと登る。
登り着いた頂上には「御嶽」の石碑があり、お賽銭が備えられていた。周囲は絶景の一言。360度の展望だ。隣りの雌岳を隔てて、うっすらと白い浅間山が遠望される。長野県境の桜堂、愛宕山、大山あたりの山々を眺める。間にちょこんと見える三角形のピークは日暮山かな。碓氷軽井沢ICとアクセス道路をほとんど真下に俯瞰する。その左には、ギザギザの稜線を少し覗かせた表妙義、金字形の山容の谷急山、裏妙義の岩峰群が見える。
のんびり大展望を楽しみたいところだが、防寒具はデポしたザックの中で、風当たりも強いので、一通りの景色を楽しんだ後は早々に雄岳を降りる。コルから下りの鎖場はスタンスの位置が判ったので、案ずるよりも楽に下れた。まずは安心。雌岳との鞍部に戻る。
雌岳へは雑木林の急斜面を登る。最初のピークは簡単に登れるが、足元は切れ落ちている。振り返ると、雄岳の岩峰が大きい。どちらから見てもすごい岩壁だ。
次の雌岳の主峰は稜線から少し離れてナイフリッジで繫がる岩峰で、切り立った岩壁に阻まれてとても登れた物ではない。しかし、残置ピトンがあるところを見ると、クライミングで行く人がいるようだ。こわー。
雌岳の北峰は簡単な岩場で、ピークに立てる。しかし、周囲は切り立っていて、あまり落ち着ける場所ではない。主峰を振り返ると頂上からすっぱり切れ落ちた岩壁が凄い。
雌岳北峰を越えると、あとは完全に葉の落ちた明るい雑木林の稜線を辿る楽しい道だ。左に下る道の入口に「八風平キャンプ場 安中山の会」の道標を見るが、稜線をもう少し進んだ展望台に行ってみることにする。
展望台は平らな露岩のあるピークで、風当たりも少し弱いので、ここで大休憩。まずは缶ビールを流し込んで少し寒くなったあと(^^;)、ラーメン+ゆで卵の昼食で暖をとる。
展望台の先にも岩稜が延びているので、食事のあとに少し辿ってみる。ここも左が切れ落ちた岩壁で、眼下の山腹には上信越道が大きく孤を描く。谷急山から裏妙義、遠く榛名山にかけての眺めが良い。
食事と展望でのんびり休んだ後、稜線を少し戻って、分岐から下山する。ロープのある岩場を降りると、あとは明るい雑木林の中の緩い下りだ。やがて、細い林道に降り着く。「高岩→安中山の会」と書かれた道標があった。林道を下ると、車を置いた場所はすぐだった。
帰途は入山川沿いの道を下って、横川に向かう。途中の恩賀や下平の集落では、上信越道の開通後も変わっていない山麓の素朴な風景の中に聳える高岩を見ることができて、なかなか和んだ。横川の峠の湯に浸かって温まり、おぎのやのドライブインで峠の釜めしを買って、桐生に帰った。