越後駒ヶ岳
桐生を午前2時前に車で出発。関越道を六日町ICで降りて、水無川沿いを走る。まだ夜明け前で、周辺の山々は星空を背景に稜線の輪郭が見えるだけだ。4時頃、越後三山森林公園キャンプ場に到着。既に車が2台あって、脇にはテントもある。朝食の稲荷を食べ、明るくなるまでの僅かな時間、車の中で一眠りする。
ハッと気が付くと周囲は明るくなっていて、隣りの車では出発の準備をしていた。こちらも慌てて起きて出発の準備をする。といっても、途中のコンビニで買い込んだインスタントラーメン、クッキー、スポーツ飲料1リットル、缶ビール500mlが入ったポリ袋をザックの中に押し込んで、登山靴を履くだけだ。今日は暑くなること必至なので、水2リットルも携行する。
年配の男女4人パーティ(ご夫婦2組?)とほぼ同時に出発。水無川を奥へ、雪解けのまま荒れた林道を歩く。行く手にはこれから登るグシガハナのピークが嫌になるほど高く聳えている。周囲の山肌は急峻で谷筋には低い所まで雪が残る。やがて、行く手には駒ヶ岳を源にもつオツルミズ沢のカグラ滝が見えて来た。
水量の多いオツルミズ沢の出合を過ぎ、水無川本流に落差はないが深い釜をもつ魚止ノ滝を見る。その上流で右手から高倉沢が流れ込む。V字の急峻な谷の奥には、ちょうど朝日が当たって輝く八海山の岩稜が、これまた遥か頭上に連なっている。
林道をさらに進むと、厚さ5mくらいの雪渓が道の半分を塞いでいる。根元が細くなっているので、そのうち倒れるのではないだろうか。ここを過ぎると、目の前に本流を跨ぐとんでもなく分厚い雪渓が出現。林道は完全に塞がれている。まだ雪の状態がいいので上からでも越えられそうだが、通行用に敷設されたボックスカルバート(箱型暗渠)で雪渓の中を通過する。中は真っ暗なので、ヘッドランプが欠かせない。
駒ヶ岳に突き上げるモチガハナ沢の出合を過ぎて少し行くと、広い平地に出て林道は終点。ここから登山道となる。十二平の道標があり、駒ヶ岳5.1kと記されている。平地ならばどうということはない距離だが、駒ヶ岳頂上までの標高差は1500m。覚悟を決めて、登山道に入る。
登山道はすぐに小さな尾根に取り付いて、樹林帯の中の急登となる。急な分、どんどん高度を稼いで効率はいいが、前回の白毛門で最初飛ばし過ぎた反省があるので、慎重にペースを考えて歩く。先は長いし。
左は雪渓を交えて急角度に駒ヶ岳山頂に突き上げるモチガハナ沢。右は水無川本流、八海山からオカメノゾキに落ちる稜線を見ながらズンズン登る。途中、藪を搔き分けたとき、左手首の少し上に急にチクリとした痛みを感じ、思わず手を引く。外見はなんともないが、指三本分くらいの範囲がチクチク痛む。毛虫か何かだろうか?痛みが悪化するとコトだが、その後は藪で擦ると痛む程度で済んだ(翌日にはすっかり直った)。
「雪見ノ松」「2合目/雪見ノ松/3合目まで2K」という古い道標のある立派なマツに到着。右手の水無川の展望が開ける。4人パーティーが先に到着して休んでいた。ここで一休みした後、先に行かせて頂く。
木の根の多い尾根筋をとにかくひたすら登る。ここは駒ヶ岳の西側で、まだ日が当たらないので、涼しいのが救いだ。雪見ノ松から約1時間、木の根元に擦れた文字で「力水」という道標を見る。水場がありそうな地名だが、周辺にその気配はない。とにかく、ザックを下ろして木の根に腰かけ、自分で担ぎ上げた水分を補給する。
急な樹林帯の登りはまだまだ続く。黄色と黒の縞の大きな蜂のような虫がタオルを巻いた頭のまわりをぶんぶん飛び回ってうるさい。これはスズメバチ?普通はこちらが大人しくしていればそのうちどこかに行ってしまうのだが、いつまで立ってもストーカーのように追いかけて来る。しまいには怖くなって、地面に伏せてみたり、ササの枝葉を振り回して見たが、甲斐なし。パニックを起こしそうになったが、近くでホバリングしているところをよく見ると、でかいアブだった。ナーンだ。以降、無視。何事も良く観察することは大事ですね。
スズメバチ騒ぎですっかりペースが狂ってしまったが、ようやく樹林帯から灌木帯に出ると、突然目の前に中ノ岳が姿を現した。このあたりが地図に「人松」とある地点だろうか。道標が見当たらないので、適当なところで一休み。ブルーベリーに似た実を見つけて食べる。甘酸っぱくて少し元気が出る。しかし、日差しがだんだん当たり始めて、気温も急上昇だ。
ここからは傾斜も一段増して、灌木やシャクナゲなどの急坂となり、一番つらいところだ。周囲には中ノ岳から八海山にかけての素晴らしい展望が開けているが、鑑賞する余裕はあまりない。小さなピークにかすれた「我忘峰」の道標を見つけて一休み。谷から涼しい風が吹き上げて来て、気持ち良くて、本当に我を忘れそうになる。ここから見上げる駒ヶ岳はまだまだ高い。しかし、グシガハナへはあと一本の登りだ。
我忘峰で鋭気を取り戻して、グシガハナへの最後の登りに取りかかる。灌木帯が切れたと思うと、突然にグシガハナのピークの上に飛び出た。
ここまでも良い展望だったが、グシガハナの展望はまさに360度で素晴らしい。越後三山の展望台としてはNo.1のロケーションではないだろうか。八海山から中ノ岳へのスカイラインは、オカメノゾキでがっくり高度を落とし、鋭いアップダウンの多い稜線が連続している。その向こうの阿寺山は緩やかなピークだ。あそこには秋に行きたいな。その向こう、遠くには巻機山が見える。
中ノ岳と駒ヶ岳を結ぶ稜線の向こうには、荒沢岳の鋭いピークがシルエットで逆光の中に浮かぶ。
駒ヶ岳へは緩い尾根が続いていて、ここまでの急登に較べれば楽そうに思える。しかし、標高差はあと200mあるし、日差しを遮るものもなく暑そうだ。ここでスポーツ飲料1リットルを飲み切る。次は駒ヶ岳山頂で缶ビールだ!
登って来た尾根を振り返ると水無川の河原が遥か下方だ。まあ、よく登って来たものだ。
グシガハナで長めの休みをとった後、駒ヶ岳へ向かう。一旦下るがすぐに緩い尾根道となる。右手は北沢の源頭で雪渓とお花畑が広がり、プロムナードである。ただし、厳しい登りの後なので、あとは駒ヶ岳の山頂に立つこと(そしてビール)で頭が一杯である。
途中の道脇に「大正八年/九合目…」と刻まれた石碑を見た。昔はここが駒ヶ岳へのメインルートだったのだろうか。しかし、これがメインで皆ここを登ったのだとしたら…。昔の人はすごいです(^^;)。
縦走路への登りは偽木の階段があって、こんなところにこんなものが、とちょっとビックリ。思ったより歩かれているのかも。振り返ると、グシガハナのすっきりとした三角のピークがもう遠い。
ようやく縦走路に合流。あとは緩い登りだけだ。右の枝折峠からの尾根には登山者の姿がぽつぽつと見える。頂上直下の雪渓を見て、駒ノ小屋からの道を合わせると、ようやく駒ヶ岳の山頂に到着した。
さすが百名山だけあって、頂上には数人のハイカーさんが憩う。でも少ないほうかも。頂上の一角に腰を落ち着けてまずは缶ビール。いや〜、一汗も二汗もかいたあとのビールは格別。
ハイカーさんの間では、遠くに見える山の同定にあーでもない、こうでもないと話に花が咲いている。越後三山、荒沢岳はもちろん、遠くの山では谷川岳、朝日岳、巻機山、中ノ岳をはさんで、武尊山、至仏山、平ヶ岳、日光白根、燧ヶ岳までぐるりと見えた。
昼食にラーメンを作って食べ終わった頃、4人パーティが到着。お疲れ様でした。話を聞くと、今回が初めての駒ヶ岳だそうで、それでこのコースを選ぶとは、そりゃすごい(@_@)。
ゆっくり休んだ後、往路を戻る。水は1.5リットルあるので余裕だろう。しかし、これだけ長い下りだとこれもトレーニングのようなもので、しかも日差しはますます強烈に。水は計算しながら消費していたが、十二平に降り着いたときは余裕なく空になっていた。ボックスカルバートの中でよーく涼んだあと、炎天下の林道をキャンプ場に戻った。
帰りはまず河原沢鉱泉幸栄館に向かい、広い湯船を一人で占領して疲れをほぐす(500円)。それから、八海山泉ビール苑に行き、6本セット(Pilsner、Alt、Weizen各2本)を買い込んで、桐生に帰った。