明神山
越後三山と守門岳・浅草岳の間には、権現堂山塊と呼ばれる山々がある。西はJR只見線で区切られ、東は黒又川を挟んで毛猛山塊に接する。この山塊を代表する山には、下権現堂山(897m)、上権現堂山(998m)、唐松山(1079m)がある。これらの山は登山道が整備されていて、ハイキングに適しており、私も三山縦走をしたことがある。標高1,000m内外の低山だが、屈指の豪雪地帯にあるため、雪崩に磨かれた急峻な地形や初夏まで残る雪渓など、なかなか魅力ある山岳景観を示す。
今回は権現堂山塊の奥に位置し、ちょっとマイナーな大倉山(976m)と明神山(760m)に登る計画を立てて、MさんとHさんに同行頂いて出かけて来ました。大倉山には道がなく、予想を超える密藪に阻まれて登れませんでしたが、明神山までは意外と良い道でした。
桐生を朝4時にHさんの車で発ち、太田藪塚IC〜小出IC間の高速道を快調に飛ばして、小出から県道三ツ又小出線を走る。羽根川に沿ってどんどん山奥に入り、最奥の三ツ又の集落を過ぎると狭隘な未舗装道となる。所々で道端に厚い残雪を見る。冬はどんだけ積雪があるんだろう。道が悪くて登山口まで行けるか心配になったが、無事に到着。登山口のすぐ先に広い駐車スペースがある。先客の車が1台。先行者がいるのかな?
上空は雲に覆われてぱっとしない天気だが、まあなんとかもつかな。周囲の山々はまだ新緑の色を残して瑞々しい。あちこちにタニウツギのピンクの群落があり、昨年同時期に登った下田白根山でも沢山咲いていたことを思い出す。朝食を摂ったのち、出発する。
車道を戻って、雪の重みで傾いた道標から山道に入る。この道標はコンクリート偽木製の立派なものだが、「←登山道 駐車場→」とだけしか書かれてなくて、行く先の山名がない不思議な物件だ。雪渓の残る沢を左に見送り、右の尾根に取り付く。
のっけから丈の低い樹林の中の急坂となり、足元にポツポツ咲くイワカガミやアカモノを見ながら急登する。492m標高点に登り着くと、こんもりと樹林に覆われた明神山が行く手に現れる。その奥に先端だけ見えている鋭峰が、大倉山らしい。
492m標高点からは見晴しの良い尾根道となり、ゆるゆると高度を上げる。右手には大きな雪渓を残す大禿沢が深く切れ込み、低山らしからぬ景観。振り返れば越後駒ヶ岳が遠望できるはずだが、今日は残念ながら薄い雲がかかって、影も形もない。
尾根を進むと、明神山の山腹をトラバースする道が樹林の中に筋のように見えてくる。これはかつての鉱山道の跡とのこと。609m標高点辺りからこの鉱山道に入る。すぐに尾根の切通しがあり、左から上がって来る鉱山道と合流する。ただし、そちら側の鉱山道は藪に覆われて全くの廃道だ。地形図には尾根通しに登る破線道が記載されているが、これも跡形も見当たらないので、右山腹をトラバースする鉱山道をそのまま辿る。
この道は、一部に岩を削って道を通した区間もあり、かつては立派な道であったことが偲ばれる。しかし、鉱山道として使われなくなって久しいようで、現在ではか細い踏み跡が続くのみだ。大禿沢を見下ろす急斜面をトラバースする道は外傾して滑り易く、足元に神経を使う。
大禿沢の源頭を延々と半周した頃、道の真ん中に架けられたタープに遭遇する。その下には木の枝で隠したザックがデポされている。いずれも置かれたのはかなり前の感じ。持ち主はどうしたんだろう?謎で不気味だ。
ここから稜線に向かう踏み跡を登る。ロープに縋って急登すると、低木に覆われた稜線の上に出て、黒又川側の眺めが開ける。毛猛山塊の檜岳も見えるはずだが、頂上はあいにく雲の中だ。明神山に続く稜線の先には、大倉山がすっくと鋭い頂きを擡げている。標高の割には高山的な風貌で、格好良い。
稜線上にもしっかりとした踏み跡が続いている。一つピークを越え、滑り易い急坂を登ると、小さな石祠のある明神山頂上(東峰)に着いた。
頂上は狭いが、360度の展望が開けて休憩に適している。今日は曇っていて、遠くまで見通せないのが残念。黒又川第二ダムのダム湖の水面が垣間見えるが、期待していた檜岳の眺めは中腹まで。まあ、大倉山や大禿沢の展望が得られただけでも御の字か。
頂上の石祠は屋根だけが残り、碑文等は判らない。隣りの西峰(三角点ピーク)との間には樹林に覆われた細長い窪地が横たわり、その底に明神池がある。石祠は、明神池の龍神を祀ったものではないかと思う。
少し休憩したのち、大倉山を目指す。稜線上の踏み跡を辿って、明神池の北端を横切る。池はまだ残雪に埋もれていて水面は見えないが、神秘的な佇まいだ。雪が消えた時期にまた訪れたいなあ。
この先は赤テープはあるものの、踏み跡は消失する。稜線上に出ると、これぞ越後の山という感じの根曲がり灌木の密藪となる。大倉山の頂上はそこに見えているのだが、急坂もあり、片道2時間は優にかかりそう。天気も怪しく、藪漕ぎ中に雨具を着ることになったら悲惨なので、残念だがここで引き返すことになった。
東峰に戻って大休止とする。ソーセージを湯煎してツマミにし、明神池の残雪でよく冷やした缶ビールをあける。昼食には時間が早いので、ビールとツマミだけでお腹いっぱいになった。
休憩後、折角の機会なので、西峰の三角点を探索しに行ってみる。微かな踏み跡を下って、明神池の流出口の残雪を渡り、灌木藪を潜ったり跨いだりして登ると、三角点標石があった。密な樹林に囲まれて全く展望なし。地形図の破線路も全く痕跡なし。往路を戻るしかなさそうだ。
東峰に戻って、往路を下山する。下りは楽で早いが、いろいろ道草しながらのんびり下る。登山口に降り着き、雪渓から流れ出る冷たい水で顔を洗う。気持ちいい〜。駐車スペースの先客の車は既になかった。先行者ではなく、山菜採りで来ていたようだ。
帰途、中子沢♨羽川荘で入浴する(500円)。それから、小出IC手前の道の駅「ゆのたに」に立ち寄って、はす向かいの酒屋で日本酒と越後ビールを買い、道の駅で昼食に蕎麦を食べる。観光気分を楽しんだのち、関越道に乗って帰桐した。
参考ガイド:明神山―大倉山、新ハイキング2010年10月号