高松山
勤労感謝の日の3連休は横浜の実家に帰省して過ごす。天気が良いので、連休の最終日は丹沢の山を軽く歩くことを考える。鍋割山に名物の鍋焼きうどんを食べに行こうかな。しかし、調べてみると、山頂に一番近い登山口(表丹沢県民の森)への道路が工事中で、当面の間、通行・駐車不可らしい。その他のルートは結構な長丁場となるので断念。鍋焼きうどんはいずれ気合を入れて食べに行くことにして、今回は丹沢南部でまだ登ったことがない高松山に出かけてきました。
早朝、実家を車で出発。東名を大井松田ICで下り、R246を西進。山間の山北町の街並みに入り、JR山北駅近くの観光客用臨時駐車場に車を置く。ここは「ハイカー等利用可」と明記されているので、安心して使える。利用時間は7〜21時、夜間・早朝の利用は禁止となっている。7時を過ぎたばかりなので、他の車は山北町の公用車らしき1台しかない。
駐車場から駅前通りを戻り、県道山北藤野線を東に向かう。人や車の通りは極少ないが、並行してR246、JR御殿場線、東名など、交通の大動脈が並行して通じ、東名の走行音が微かに響いて伝わる。山北中学校入口バス停を過ぎ、山北歩道橋で左折。行手に高松山から東に続く尾根を望みつつ、尺里(ひさり)の長閑な集落の路地を歩く。
尺里川の谷間へ入ると、東名の尺里川橋が高々と架かる。橋梁の下に公衆WCあり。東名の下り線は、この辺り(大井松田IC〜足柄SIC)では左ルートと右ルートに分かれているから、上り線と合わせて3本の橋が架かる。現在は右ルートがリニューアル工事中で、ここでも大々的に右ルートの橋の改修が行われている。
尺里川橋の下を潜り抜け、尺里川沿いの車道を歩く。この奥に新東名の建設現場があり、ダンプトラックの往来が多いので、道路脇に足場板による安全通路が設置されている。ただし、今日は休日につき休工なので、ダンプも走っていない。尺里川は石組みで床固めされた幅広い渓流だ。今は水嵩は少ないが、大雨の時は出水がありそう。中流にはレトロな雰囲気のトラス橋が架かっていて、興味を惹かれる。親柱の銘板を見ると安洞(やすぼら)橋という橋らしい。
谷間の奥へと進んで行くと、新東名の巨大な橋梁や山腹の工事現場が高々と見えて来る。左に簡易舗装の車道が分岐し、「高松山ハイキングコース ←」の案内看板に従って左折。この分岐点には2体の風化した馬頭観音像が祀られている。
簡易舗装の車道に入り、放擲気味の果樹園が広がる急な山肌を斜上する。どんどん高度を稼いで、左下に先程歩いて来た尺里川の谷間が見おろされる。朝日が当たり始めた集落や東名の尺里川橋が良く見える。その向こうにこんもりと盛り上がった山は丸山(標高252m)のようだ。
再び「高松山ハイキングコース→」の案内看板があり、右に切り返して分岐する車道を辿る。ススキに覆われた急斜面をトラバース。斜面の上には新東名の建設現場がある。ますます眺めが開け、丸山の向こうに箱根外輪山が迫り上がって遠望できる。左の大きくなだらかな山は明神ヶ岳、その右のちょこんと尖った山は金時山のようだ。
やがて車道はバリケードに突き当たって通行止めとなり、右にハイカー用の迂回路が分岐する。鋼製の足場板による仮設歩道を歩き、だいぶ下ってから登り返す。尺里川の谷間を隔てた対岸には、建設中の新東名・高松トンネルの入口や工事車両用の巨大なジグザグの道路が眺められる。
新東名の完成間近い橋を潜り抜け、小尾根上に設けられた階段道を上る。廃れた農作業小屋を過ぎると従来の登山道に合流し、長い迂回路がようやく終わる。
ここからはなだらかな尾根に絡んで、樹林中の山道をゆるゆると登る。ほとんど常緑樹に覆われているが、稀に鮮やかな紅葉もある。送電鉄塔の左脇を通り、尾根上の堀割り状の山道を辿る。伐採された右斜面に出て、2つめの送電鉄塔(田代線369)の基部を通過。すぐ先に「←尺里50分 ビリ堂45分/高松山1時間15分→」のしっかりした道標がある。
5分程で作業道を横断し、短い急坂を登ると、尾根上に2体の馬頭観音像がある。山道は右山腹に入り、ほぼ水平にトラバースする。杉植林中の単調な山道だが、下生えのシダの緑が鮮やか。一部に紅葉が混じる。「標高600M」のプレートを過ぎると程なく尾根筋に復帰し、ビリ堂に到着する。
ビリ堂には、杉大木の根元に2体の馬頭観音像が並んで祀られている。そのうちの1体(文化年間の方)は馬の頭が仏の頭と同じくらいの大きさがあり、面白い。また、ビリ堂の謂れの説明板があり、それによると、一番ビリ、最後にある観音堂なのでビリ堂といわれている、とのこと。
明治十一(1817)年六月
文化十癸酉(1813)年三月吉日
ビリ堂から左山腹を斜上。「標高650M」のプレートを過ぎると杉植林の急斜面の登りにかかり、擬木の階段道を急登する。さらに雨水で抉れて木の根の露出が目立つ山道をジグザグに登ると、高松山の西の稜線上に登り着く。
道標があり、稜線を左(西)に辿るとヒネゴ沢乗越を経てダルマ山に至るとのこと。なだらかな稜線を右(東)に登ると、山名標識や三角点標石のある高松山頂上に着く。
頂上は平坦な芝生の広場となり、南面が広く開けている。僅かに白く冠雪した富士山から、愛鷹連峰、箱根山にかけて、素晴らしい展望が得られる。また、小田原方面の向こうには相模湾の海面が微かに煌めいて眺められる。頂上広場には紅葉した楓が点在し、テーブルとベンチもある。そこではソロハイカーさんが休憩中。期待以上に展望と雰囲気が良い山頂で、これは訪れて良かった。
しばらくするとソロハイカーさんが下山してベンチが空いたので、移動して着席。まだ昼食には早いので、鯖味噌煮と缶ビールだけ頂いて休憩する。
下山は尺里峠への尾根を下る。ススキの間の山道に入り、プラ階段と手摺のある急坂を下る。傾斜が緩むと道標があり、下った坂は男坂と書いてある。振り返って見上げると、結構な急坂だ。女坂(回り道)の道標もあり、急坂を迂回して登る山道が分岐する。
この先は幅広くなだらかな尾根となり、だらだらと下る。植林に囲まれて展望はないが、馬の背の標識のある箇所では、木の間から塔ノ岳が眺められる。
さらに植林の尾根をゆるゆる下ると、右側が雑木林の斜面となり、陽が差し込んで明るくなる。雑木の黄葉が綺麗だ。右手の眺めが開けた箇所に「真弓が丘」の標識があり、ベンチが置かれている。また、すぐ先に真弓(マユミ)の大木がある。説明板によると、マユミには雄雌があり、この木は雄株とのこと。なので、秋にマユミが付ける四裂したピンク色の実が見当たらない。この辺では、高松山頂上に雌株の大木があるとのこと。残念、そちらは見逃した。
この先も右側が黄葉した雑木林で、明るく気持ち良い尾根道の緩い下りが続く。途中、軽装のハイカーさんとすれ違う。桜の古木のある「桜平」、ベンチがあり、富士山が見える「富士見台」を過ぎると、小さい社に着く。これが虫沢第六天で、社の中には風化した馬頭観音像と「奉勧請 災障消除 諸縁吉祥 他化自在天」と刻まれた新しい御影石製の石碑が祀られている。
「虫沢古道を守る会」が設置した説明板によると、ここ尺里峠(通称、第六天)にはかつて御堂があり、馬頭観音と第六天の石碑(他化自在天)が祀られていた。戦後、移転したり、消失したりしていたものを、2012年に再建したとのこと。なお、第六天とは、火災、盗難等を除き、更に家内安全、五穀豊穣の功徳を招来する神霊だそうだ。
すぐ下が尺里峠で、車道が通じ、簡易WCもある。バイクが駐車しているのは、先程のハイカーさんの物だろう。車の駐車スペースはほとんどない。
あとは尺里方面へ車道を下るのみだが、車道を虫沢方面へ少し進んだ所に「水落山(三等三角点)→」の道標があり、山道が分岐するので、水落山まで登ってみよう。
大した登りもなく、あっという間に三角点標石(点名:大六天)のある山頂に着く。樹林に囲まれて薄暗い頂だが、南斜面は樹林が切り開かれて明るく、松田町方面が眺められる。
尺里峠に戻り、尺里・山北駅側へ車道を下る。なお、尺里峠には「ヤマビル注意」の看板があり、893風にゆるキャラ化したヤマビルのイラストに「山野ヒルくん」という名前が付けられている。先日、大倉尾根でヒルに喰われたことを思い出してゾッとする。まあ、今の季節は寒くて流石に出ないだろう。それにしても、ヤマビルのゆるキャラとは恐れ入った😅
車道をてくてく下って行く。中腹に民家が点在する高松山集落があり、富士山の眺めが良い。公衆WCを過ぎ、急峻な山腹をトラバースする。見上げると高松山がなかなか高い。
尺里川の深い谷へジグザグに下る。ようやく下り着いて、渓谷の右岸の車道を歩く。途中、「山ゆりの滝」の標識があり、右から落ちる枝沢に小滝がかかる。まあ、それほど見栄えのする滝ではない。
渓流に沿って下る。新東名の橋の下の道路は工事中で、左岸に渡って迂回路を通る。やがて、往路の分岐点に到着。あとは往路を観光客用臨時駐車場まで戻る。意外なことに、駐車場は満杯になっていた。結構、観光客が多いのかな。
駅前通りを隔てた駐車場の真向かいには、お誂え向きに酒屋があり、地酒の「秀峰純米酒丹沢山」1.8ℓを買って帰路につく。新秦野ICから新東名に乗る。3連休の最終日でUターン渋滞を心配していたが、時間帯が早いお陰か、ほとんど渋滞せず、サクッと約1時間で実家に帰り着いた。
参考URL:山北町HP「高松山ハイキングコース」