大岳山
お盆休みは4日間程、横浜の実家に帰省した。その間、神奈川や静岡辺りの山に登ろうと思っていたが、天候不順のため見送り。その代わり、横浜から桐生へ戻る際に奥多摩の山に立ち寄り、御岳山(みたけさん)と大岳山(おおだけさん)を繋いで登ってきました。
早朝、実家を車で発ち、下道を走って奥多摩へ。JR御嶽駅から多摩川を隔てた対岸にある御岳苑地駐車場(有料)に車を置く。駐車場は広くて空いている。綺麗なWCあり。当初の計画では、ここから御嶽駅に歩いて戻り、路線バスで御岳山ケーブルカー滝本駅に行き、始発のケーブルカーで御岳山に上がる予定だった。しかし、時刻を見るとバスの便までだいぶ時間があり、それならば歩いた方が早い。
ということで、トレーニングがてら滝本駅まで車道を歩く。今日は快晴。御岳山の山懐に入れば木陰があって多少は涼しいが、坂道の登りで汗だくになって滝本駅に着く。駅入口のシャッターはまだ閉まっていて、その前には始発のケーブルカーを待つハイカーが既にちらほら。運賃は片道600円也。7:00にシャッターが開き、改札口の前の列に並ぶ。御岳山ケーブルカーは開業90周年を迎えたとのこと。5分前から乗車開始。ほぼ満員の乗客を乗せて、定刻の7:30に発車する。


約6分の乗車で御岳山駅に着く。標高が830mあるので、ちょっと涼しい。駅前には御岳平と称する広場を囲んで藤棚や土産物屋(まだ営業時間前で、閉まっている)がある。東側の眺めが良く、御嶽駅辺りと周辺の山並みを俯瞰し、関東平野を遠望する。


周辺には「みたけ山 レンゲショウマまつり 日本一の群生地」という幟があちこちに立ち、どうも御岳平の近くに群生地があるらしい。ケーブルカーから降りたハイカーの多くも群生地に向かっているようだ。レンゲショウマの群生地があるとは、ここに来るまで全く知らなかった。せっかくなので、レンゲショウマを見に行こう。
群生地は日陰の斜面にあり、植生保護のゲートを潜って、急な階段道を登る。一面にレンゲショウマが咲いていて、日本一の群生地というのも頷ける(後日調べると約5万株あるらしい)。ちょうど見頃を迎えており、蕾もあって長く楽しめそう。


花の写真を数枚撮ったのち、御岳山駅に戻り、表参道を経由して御嶽神社に向かう。山腹を巻いて幅広い参道を進むと、行く手の左になだらかな頂の御岳山、右に鋭く尖った頂の奥の院が眺められる。杉林を抜け、御師(おし)の宿坊が軒を連ねる路地に入り、右へ左へとジグザグに進む。


急坂を上る途中、頭上に巨大な幹の欅が枝を広げて青々と葉を茂らせている。これが神代欅だ。説明板によると幹の周囲8.2m、日本武尊東征の昔から生い茂っていたと伝えられている、とのこと。


まだ開いていない土産物店の並びを通り抜け、御嶽神社の参道石段を登る。御影石の立派な石段が続き、両脇には◯◯講と記された石碑が多数建ち並ぶ。途中で左に長尾平・大岳山方面への登山道を分け、さらに急な石段をひと登りすると御嶽神社の本殿に着く。


御嶽神社(正式には武蔵御嶽神社)の創建は非常に古く、紀元前91年と伝わっている。蔵王信仰、修験道、御嶽信仰の霊山として栄え、現在も関東一円の信仰を集めている。本殿の前は東に眺めが開け、関東平野を一望する。都民にとって、御岳山は高尾山の次くらいに馴染みがあるハイキング向けの山で、私も中央線沿線に住んでいた子供の頃に来ている(が、ほとんど記憶にない)。
本殿の前には一対の狛犬ならぬ狛狼が鎮座する。これは祭神の一柱に狼が神格化した大口真神(おおぐちまかみ)がおわし、おいぬ様として信仰されているため。ブロンズ製の筋骨隆々とした精悍な体躯の像で、強大な前足と爪が恐ろしげだ。


参拝を終え、参道石段を戻る。石段の途中からショートカットして右の山道へ折れ、ジグザグに下ると長尾平・大岳山方面への登山道に合流する。


幅広く平坦な登山道を辿ると長尾平に着く。ここには長尾茶屋があるが、まだ営業時間前(土日祝11時から営業らしい)。「日本山岳耐久レース」の幟があり、それを見て大昔にこのレース(ハセツネCUP)に参加したことを思い出す(71.5kmを制限時間24時間以内でなんとか完走した)。ここには長谷川恒男記念碑もある。


さらに山腹のトラバース道を辿る。平坦で歩き易い。天狗岩・ロックガーデンへ下る道を左に分け、次の分岐で右に奥の院へ登る参道を分ける。この分岐には「天狗の腰掛け杉」という大木がある。樹齢350年、樹高60m、目通り6.5mとのこと。


登山道は奥の院の山腹を巻いて進む。途中、立派なバイオWCがある。なおも平坦な巻き道を進むと水場がある。楽な道とはいえ、風がなくて蒸し暑いから既に汗ダクダクだ。水場の水を掬って飲んでみると、そこそこ冷たくて美味い。水場のすぐ先で養沢川源流の沢に出て、ロックガーデンから沢沿いに上がって来た登山道に合流する。すぐ上に休憩舎があるが、休まずに通過。




ここから登山道は少し幅が狭くなり、水量の少ない沢に沿って緩く登る。やがて左岸から右岸に渡り、急斜面を斜上する。後ろから、声が大きくて元気な2人組ハイカーが迫って来たので、先に行って貰う。尾根の上に出た所に「アクバ峠」の標識があり、左へ上高岩山・サルギ尾根の登山道を分ける。杉林に囲まれて展望はない。右へ登ると奥の院・鍋割山を経由して来た山道と合流し、御岳山と大岳山を繋ぐ主稜線に絡んで登る。自然林と下生えの丈の低い笹原の緑が綺麗だ。




崩壊したプレハブ小屋を過ぎると「これより岩場 滑落注意」の標識がある。急斜面に突き当たって左にまわり込むと岩場が現れる。と言っても大した危険はない。手摺が設置された岩場を横断し、鎖が張られた岩場を越える。岩が濡れて滑り易いので要注意。程なく、荒廃した大岳山荘に着く(後日調べると2008年に営業を終了したらしい)。敷地の奥には展望テラスがあるようだが、残念ながら立入禁止になっている。




大岳山荘から木の鳥居を潜って少し登ると、大岳神社の社殿がひっそりと建つ。社殿左手の斜面を登り、小尾根に出て小さな岩場を越える。さらに登って傾斜が緩むと、大岳山の頂上に着く。




頂上は小広く、三角点標石と御影石製の山名標識があり、数組のハイカーが休憩中。西から南にかけて眺めが開ける。まずはベンチに腰掛けて休憩。小腹が減ったので菓子を齧り、水を飲む。カップ麺も持参しているが、暑くてグショグショに汗をかいており、湯を沸かして食べる気がしない。
一息入れた後、展望を楽しんで写真を撮る。南には浅間嶺の稜線、その向こうには笹尾根が長々と横たわり、靄っているが丹沢山塊を遠望する。西には御前山、三頭山を望み、その奥に大菩薩連嶺を遠望する。ハセツネCUPは笹尾根から三頭山、御前山を越えてここに来る訳だから、とんでもなくハードな行程だ。今は踏破できる気が全くしない😅


下山は鋸尾根を経て、奥多摩駅に下る。大岳山頂上からの下りは、最初はちょっと急で鎖や階段が現れるが、すぐに緩やかな尾根道となってダラダラと下る。ハセツネCUPのトレーニングと思しきランナー数人に追い抜かれる。


やがて、左に大ダワ・御前山への縦走路を分ける。大ダワから奥多摩に下る鋸山林道は通行止めとの掲示がある(2026年2月までらしい)。ここから岩場を交えた急登となり、鋸山の頂上に着く。頂上は檜林に囲まれて展望はない。ハイカーが数組休憩中。私もベンチに腰掛けて一休み。


休憩の後、鋸山から奥多摩駅に向かって下る。日が翳り、次の小ピークを越えた辺りでポツポツと雨が降り出す。午後から雨との天気予報が出ていたから、これは想定内だ。白いガスに覆われて薄暗くなり、雨足も強まって来たので、ゴアの上下を着て、ザックにカバーを掛ける。
しとしと降る雨の中、尾根道をひたすら下る。雨天で山を歩くのは久し振りだ。ゴアのお陰で浸水しないのは快適だが、暑いためどうしても蒸れるのは不快だ。やがて、岩場のある小平地に着くと雨が止み、雲が切れて本仁田山の大きな山容が現れる。ここで一休みしてゴアを脱ぐ。あー涼しい。


岩場の下は切れ落ちて、鎖場があるようだ。巻き道があるので、ここは巻きの一択。下から鎖場を見上げると、岩の隙間にぎっしりと張った木の根が雨に濡れてツルンツルン。今日のコース中、一番の危険箇所だ。巻き道があって良かった。


鎖場の先も急な岩稜が続き、鉄製階段を下る。小ギャップから岩稜を登り返すと小岩峰の頂に着く。ここは天聖神社奥宮と称する地点で、大天狗、小天狗の石像や祭壇がある。晴れていれば眺めが良さそうな頂だ。ここを過ぎると杉林に覆われたなだらかな尾根となり、ジグザグに下る。再び雨が降って来たので、ゴアを着る。岩稜を下っているときは雨が止んでいてラッキーだった。




ダラダラ下って行くと林道に出る。そのすぐ先が登計峠で、山麓から上がって来た舗装道の終点に駐車スペースがある。正面の小さな峰が愛宕山で、頂上に愛宕神社がある。 登り口には石鳥居や狛犬の他、愛宕神社々殿新築記念碑(1989年に新築したとのこと)がある。


石鳥居を潜って急な石段を登ると愛宕山の頂上に到着。狭い頂を占拠して愛宕神社の社殿が建つ。社殿は奥多摩駅周辺の市街の方とは逆方向を向いており、ちょっと変わっている。頂上から一段下がったところに平地があり、五重塔や平和の鐘、「南無妙法蓮華経」と刻まれた石碑がある。


境内を過ぎると崖に近い急斜面に差し掛る。雨に濡れて滑り易い山道をジグザグに下ると、長く急な参道階段が現れる。この辺りで滑落したらお陀仏なので要注意。階段が下り終えると傾斜が緩み、登計園地内の歩道を下って、昭和橋の南詰に着く。鋸尾根の下りは途中に岩稜や岩場があり、思ったより険しくて歩き応えがあった。


車道を歩いて奥多摩駅に向かい、昭和橋を渡る。昭和橋は多摩川の深い渓谷に架かる橋で、橋上から見おろすと大勢の観光客が河原でBBQをしたり、川遊びやボート遊びに興じている。


橋を渡れば奥多摩駅はすぐだ。駅周辺は外国人観光客が多い。インバウンドの波がこんな山奥まで及んでいるとは喫驚。奥多摩駅から青梅線の列車に乗車して、御嶽駅で下車。駅前から多摩川に架かる御岳橋を渡って御岳苑地駐車場に向かう。橋上からは御岳山を望むことができた。




帰りは日の出山の東の山間にある「つるつる温泉」に日帰り入浴で立ち寄る。行ってみると駐車場(キャパ130台)はほぼ満杯となっていて、人気の程が窺える。浴室も混んでいたが、さっぱりと汗を流し、アルカリ性で少しぬるぬるするお湯にゆったり浸かる。入浴後、青梅ICから圏央道に乗り、桐生への帰途についた。