十坊山〜浮嶽〜女岳
佐賀に所用があり、その後の週末を利用して唐津に滞在。佐賀と福岡の県境を成す脊振山地の西端に位置する山々を歩いてきました。
前日の8日(金)は所用を済ませたのち、佐賀駅からJR唐津線で唐津駅に移動し、駅前のビジネスホテルにチェックインする。
9日(土)の当日、唐津駅5:38発筑前前原(ちくぜんまえばる)行のJR筑肥線に乗車。まだ夜明け前で真っ暗な中、福吉(ふくよし)駅5:59着で下車する。今日はここから十坊山(とんぼやま)、浮嶽(うきだけ)、女岳(めだけ)を縦走し、1駅先の大入(だいにゅう)駅に下る予定である。
私にとって筑肥線は超ローカル線というイメージがあり、福吉駅も辺鄙な駅となんとなく想像していたが、橋上駅舎の南口から出ると、駅前には新興住宅街が広がっていて、ちょっと驚く。まあ、私が知っている筑肥線は、福岡市内に住んでいて、通っていた小学校の裏手に筑肥線が走っていた頃のものだからなあ。今では筑肥線と福岡市地下鉄空港線の直通運転により、福吉駅の辺りも福岡の通勤圏内となり、宅地開発が進んだのだろう……
……などと考えつつ住宅街の通りを歩くと、すぐに住宅街から外れて、真っ暗な田圃の真ん中を進む一本道となる。行く手には薄明の空に十坊山の山影がくっきりと輪郭を描く。山麓のオレンジ色の灯りの列は高速道路(二丈浜玉道路)の照明灯で、車の走行音が微かに伝わって来る。右手には浮嶽の丸みを帯びた山影が、その名の通り高々と浮かぶ。
山麓の車道(県道藤川二丈線)に合流し、高速道路の高架を潜って中村集落に入ると、「二丈岳〜十坊山登山道マップ」の案内看板と「中村登山口 十坊山 徒歩80分→」の道標がある。道標に従って県道から右に分岐する車道に入り、まだ寝静まった集落の中を上る。
集落を抜けて、みかん畑の間を登る。左には浮嶽の山影が高く、その山麓にはひっそりと二丈吉井の集落の灯りを抱いて、低山ながらも神々しい佇まいがある。
みかん畑と樹林の中のやや荒れた車道を登る。分岐が多いが、要所に道標がある。やがて車道終点となり、登山道に入る。傾斜が緩い尾根を絡んで登る。そういう地質なのか、大きな花崗岩があちこちに露出している(後日調べると、脊振山地は地下から隆起した花崗岩が侵食から取り残されてできた残丘らしい)。
「相思の桜 90分→」の道標があり、右の鹿家(しかか)駅への登山道を分ける。杉とアオキに覆われた急坂をひと登りすると、十坊山の頂上に着く。
頂上には綺麗に刈り払われた草地が広がり、ほぼ360度の眺めが得られる。頂上には二つに割れかけた大岩が鎮座する。鎖を手繰って大岩の上に登ると、さらに展望が開ける。西には唐津湾に沿って虹の松原が緑の弧を描き、鏡山が台形で特徴的な山容を見せ、その右奥に唐津市街が広がる。
北には玄界灘を一望する。沖合には姫島が浮かび、その右には糸島半島が横たわる。海岸線には福吉駅付近の街並みを俯瞰し、あそこから来たんだなあ、と登った標高と距離を実感する。東を望むと朝日を背にして、次に目指す浮嶽のシルエットが高く遠い。なかなか登り応えがありそう。浮嶽の左には女岳や二丈岳のちょんと尖った頂が覗いている。
頂上で展望を楽しんだのち、浮嶽への縦走路に入る。短い急坂を下ると常緑樹に覆われた緩やかな尾根道となり、県道が通る白木(しらき)峠に下り着く。車道を横断し、法面の階段を上がって浮嶽への登山道に入る。ここから浮嶽までの登りは、ちょっと長い。
アオキが繁る杉林の中、緩く小さなアップダウンのある山稜を進む。右手にはゴルフ場が見え隠れする。ゴルフ場から離れると常緑の自然林に入り、傾斜が増す。急坂をほぼ一直線状に登ってグングン高度を上げる。ようやく傾斜が緩み、南登山口からの登山道を合わせると、すぐ先に石垣とその上に参籠所がある。あそこが浮嶽の山頂だ。
頂上は杉の古木に囲まれた平地で、参籠所の横手に「浮嶽山頂」の山名標識、裏手に浮嶽神社上宮の社と三角点標石がある。社の前には安政三(1856)年の銘が刻まれた石灯籠と石段参道、下には崩落した大きな石鳥居があり、古くから篤く信仰されていることが窺える。樹林に囲まれて展望に乏しく、北面に木立を透かして福吉辺りの海が見える程度。しかし、静謐で落ち着ける雰囲気の頂だ。社の前に腰を下ろして休憩し、パンを齧る。
一休みした後、縦走路を先に進む。少し先にはベンチがあり、南側の大岩の上から唐津市七山の山地や山村、東には脊振山地の一座の羽金山が眺められる。羽金山の頂上には長波標準電波の送信所があり、(写真では判別し難いが)高いアンテナが建っているのが見えるから、判別し易い。
雑木林に覆われた急な尾根を小さくジグザグを切って下ると、左手に大岩展望台がある。平たい大岩の上に立つと、浮嶽の急峻な北斜面に面して展望が開け、なかなか高度感がある。福吉駅付近の集落を俯瞰し、右の方には端正な鈍角三角形の二丈岳も見える。
大岩展望台の大岩(獅子駒岩)の下は岩屋となって白龍稲荷があり、赤鳥居の奥に赤い社が祀られている。白龍稲荷から少し下ったところで右に東登山口への道を分け、さらに尾根を急降下する。
ようやく傾斜が緩むと、舗装された林道(上浮岳線)に出る。縦走路は県境稜線上に続いているが、アップダウンが多くて大変そうなので、林道で巻いて荒谷峠に向かう。林道の下方の斜面は広く伐採されて、眺めが開ける。行く手には、これも整った三角形の山容の女岳を望む。振り返れば浮嶽を仰ぎ、その中腹には大きな獅子駒岩も見える。
「←浮岳」の道標のある地点で県境稜線を経由する縦走路を合わせると、程なく荒谷峠直下のT字路に着く。すぐ右手に「女岳→」の道標があり、ここから登山道に入って、杉とアオキに鬱蒼と覆われて薄暗い斜面を直登する。ひたすら登っていくと尾根上の道となり、苔むした転石が点在する自然林の中を登って行く。
中弛みを過ぎ、もう一段、急坂を一直線状に登ると女岳の頂上に着く。頂上は樹林に遮られて展望はほとんどないが、刈り払いされた草地が広がり、落ち着ける雰囲気。
腰を下ろして一休みしたのち、下山にかかる。巨石を過ぎ、尾根道を緩く下って行くと「←真名子」の道標があり、荒川峠への縦走路から左に分岐して、女岳の北側中腹の真名子集落に至る道に入る。
しばらく急斜面の滑り易い道が続き、杉林に入って流水に沿って下ると、山腹を横切る林道に出る。林道を横切ってさらに登山道を下ると傾斜が弱まり、ところどころで水が流れる道型となる。最後は洗掘された山道を少し進み、右側の簡易舗装の道に入ると「つばき橋」で加茂川本流を渡って右岸の林道に出る。
もうすっかり下山した気分になり、加茂川に沿って林道をのんびり下ると、程なく三叉路となる。左の道は加茂川に架かる「木の香橋」を渡って真名子集落に向かう。右は加茂神社に至る道で、その入口には登山届のポストや登山ルート図の看板の他、真名子木の香ランド(加茂川上流にあるキャンプ場)の大研修棟、小研修棟と称する建物がある。また、広い駐車場もあり、周辺の山の登山口として利用されている模様。
右の道を進んで加茂神社に向かう。途中、二丈岳の西登山口を通過。二丈岳にも往復して登ろうかなとも考えたが、標高差が約300mあり、さすがにしんどいので止めておく。
この辺りは周囲を女岳や二丈岳に囲まれた小盆地となり、草木が生い茂る平坦地が広がって、一風変わった景観を示す。多分、加茂川が中腹で堰き止められて出来た地形じゃないかな。車道の終点で、盆地を貫流した加茂川の流出口に加茂神社が鎮座し、石鳥居と簡素な社殿がある。ここから見る女岳は、尾瀬ヶ原から眺める至仏山をちょっと想起させる。
加茂川はここから二丈渓谷と称する急流となって、標高差約300mを流下する。下山した気分はまだ早かった😅。渓谷に沿って整備された遊歩道を下る。大きな滝はないが滑滝が点在し、変化に富む。時期が合えば紅葉も楽しめそう。途中に明神の滝という滝があるそうだが、どの滝か判らなかった。
渓谷の終点には巨大な砂防堰堤があり、その脇を下って「加茂ゆらりんこ橋」と名付けられた吊り橋を渡ると広い駐車場があり、車道に下り着く。
あとは車道を歩いて大入駅に向かう。程なく刈り入れが終わった棚田が広がる緩斜面に出て、長閑な山村風景を楽しみながらぶらぶらと下る。この地形も地滑り等で谷が埋まったものらしい。道端でみかんを無人販売していたので、一袋買って、食べながら歩く。見てくれはあまり良くないが、ジューシーで甘く美味しい。
二丈浜玉道路の高架橋の下を潜り、筑肥線の踏切を渡って、海岸沿いのR202に出る。大入駅はR202を歩いて10分程の距離だ。無人駅でR202から踏切を渡った反対側の路地に面して出入口がある。簡易式カードリーダにSuicaでタッチし、1番のりばで残りのみかんを食べながら列車を待つ。13:55発西唐津行の列車に乗り、唐津14:20着。宿に戻ってシャワーを浴び、着替えて一休みする。
予定よりだいぶ早く宿に帰り着いて時間が余ったので、唐津城まで往復して観光しよう。市街を通り抜け、唐津城本丸の南入口から中段広場を経て上段広場まで石段を登る(有料のエレベーターもある)。観光客はちらほら。そこそこ賑わっている。天守閣の入場は500円。唐津の歴史や唐津焼の展示を見学し、最上階の展望フロアに登る。さすがに眺めが良く、360度の展望が開ける。今日登った十坊山と浮嶽も遠望でき、特に浮嶽の三角形の頂は高く、遠くからも一目で判る。
唐津にもう一泊。翌日、日本最古で縄文時代の水田の跡が発見された菜畑遺跡と付設の末盧館を見学し、ふるさと会館アルピノで土産に唐津焼のぐい吞を買ったのち、JRで佐賀に戻り、佐賀空港から帰桐の途についた。