棒ノ嶺
この週末の山歩きの行く先を考えて、奥多摩の棒ノ嶺(ぼうのみね)を思い付く。
奥多摩の山には、大昔、中央線沿線に住んでいた頃、青梅線を利用して日帰りでよく登っていて、主要な山はあらかた登頂済だが、棒ノ嶺(と浅間嶺)は登ったことがない。棒ノ嶺は四方から登路があり、なかでも北麓の名栗湖から白谷(しろや)沢沿いに登るコースがもっぱら歩かれていて、小滝やゴルジュが連続するハイキングコースとして非常に人気が高い。このコースは一度歩いてみたい、という訳で、出かけてきました。
桐生を早朝、車で出発。圏央道を青梅ICで降り、岩蔵街道、成木街道を走る。この街道は初めて走ったが、里山の鄙びた山村が続いて、なかなか風景が良い。小沢峠をトンネルで抜けて埼玉県に入り、入間川沿いに走って、さわらびの湯に到着。第3駐車場に車を置く。広い駐車場だが、既にハイカーさんの車が多い(下山時は満車になっていた)。
さわらびの湯から歩き出し、車道を上って、有間ダムに向かう。有馬ダムはロックフィルダムで、後日調べると堤高83.5m。ダムの天端を渡る。ダム湖(名栗湖)の周囲の山々は瑞々しい緑に包まれ、湖面の奥には有間山稜を望む。これは良い眺めだ。バイクのツーリングで来て、休憩中のおじさんライダーが多い。
ダム湖の南岸の周回道路を歩く。途中、湖中に大きな穴が開いた施設がある。説明板によると、これは有間ダムのトンネル洪水吐(こうずいばき)の坑口だそうだ。洪水吐はダムに流入した洪水を安全に下流に流すための設備で、堤体を越流させて行うシュート式が一般的だが、本格的なトンネル式はここが日本初とのこと。この辺りから白谷沢の谷を見通すことができ、その奥には棒ノ嶺の小さな三角形のピークが眺められる。
白谷沢に架かる立派な鋼桁橋(白谷橋)を渡ると、橋の袂に登山口がある。登山口から車道を少し進んだところにも10台分程の駐車スペースがあるが、既にほぼ満車。
登山道に入り、白谷沢の左岸台地の植林地を登る。林内には、少し薬っぽいが、良い匂いが漂う。ガクウツギの花が満開で、どうもこの花の香りらしい。
登山道は、やがて左岸の山腹の高い所をトラバースする道となる。段々、谷が狭まり、険しさが出てくる。小さな岩場を越え、渓流に近づくと二段の小滝があり、その落口近くで沢に降りる。落口には「藤懸の滝」の標柱が建つ。
登山道はここから沢沿いの道となり、大きな転石の多い沢を何度も渡り返して遡る。これは楽しい。流水際の岩の上で咲いている黄色い花はヒメレンゲかな。少し登ると、両岸とも岩壁で門のように切り立ったゴルジュの入口に着く。わくわく。
ゴルジュの中はU字に穿たれた岩盤で、水際を登る。ゴルジュは短くて、すぐに通り抜けるが、その先の沢は傾斜を強めて綺麗な小滝をかける。これが天狗ノ滝らしい。苔むした転石に覆われた沢を進むと、第二のゴルジュの入口に着く。
第二のゴルジュは狭くてちょっと長く、段々に落ちる流水の際を登る。小滝があり、ゴルジュはその奥へ、さらに狭まって続くが、登山道はここで巻道に入り、左岸を石段と手摺の鎖で急登する。登山道としては結構険しい道で、これはこれで変化に富んでいて面白い。振り返ると、ゴルジュの中に後続のハイカーさんが大勢居られるのが見おろされる。
ゴルジュの出口には白孔雀ノ滝がある。見おろすと、一枚岩を一筋の水流が流れ落ちる綺麗な滝だ。登山道は巻き道から落口で沢身に戻る。これで白谷沢コースの核心部は終わり。谷はなだらかになり、杉植林が現れる。沢沿いの登山道を辿り、短い急坂を木の階段道で登ると大名栗林道に出る。ベンチがあり、ハイカーさんが休憩中だが、先に進もう。
登山道はザレた急斜面をジグザグを切って急登したのち、新緑の雑木林に覆われた山腹のトラバース道となる。尾根に出た所にベンチと大きな石塔がある。この尾根が滝ノ平尾根で、石塔は岩茸石と呼ぶ。今日はここから棒ノ嶺を往復し、帰りは滝ノ平尾根を下ってさわらびの湯に戻る予定である。
岩茸石から尾根道を登る。左斜面は檜植林、右斜面は新緑の雑木林で、その境を緩く登る。やがて急坂となり、丸太の階段道が現れるが、壊れて危険なので利用不可の掲示がある。急登すると都県境稜線に登り着き、小広い平地に権次入(ごんじり)峠の標識と簡易なベンチがある。峠といっても鞍部ではなく、尾根の肩となっている。
権次入峠から棒ノ嶺へは同じような雰囲気の尾根道を登って、15分程の短い距離だ。登り着いた頂上は広くなだらかで、多分、泥濘化を防ぐためだろう、木道が敷設されている。休憩舎やベンチがあり、大勢のハイカーさんが休憩中。頂上の中央には桜の木が大きく枝を広げて葉を繁らせている。樹林に囲まれて、展望はほとんどない。かつては北面に展望が開けていたようで、展望説明板には武甲山や伊豆ヶ岳、谷川岳や日光白根山まで記載されているが、今日は薄靄がかかって遠方の山は見えないし、手前の樹林が育って視界を遮り、奥武蔵の稜線の一部が見えるだけ。展望は期待していたので、ちょっとがっかり。
時間はちょっと早いが、ベンチに腰掛けて昼食休憩とし、カップヌードル担担を食べる。日が高くなり、日向に居ると暑いくらいだ。
昼食後、下山にかかり、権次入峠を経て岩茸石まで往路を戻る。岩茸石の天辺に登って休憩中のハイカーさんも居る。反対側から簡単に登れるが、天辺は結構高いので、見ているだけでヒヤヒヤする。
岩茸石からさらに滝ノ平尾根を下る。なだらかな尾根で、アセビの木が多い。林道を横断し、少し登る。一株だけだが、満開のヤマツツジを見る。数基のベンチがある平坦なピークに登り着く。古いハイキングコース案内看板があり、それによるとこのピークは白地(しきじ)平と呼ぶらしい。展望櫓もあり、奥多摩側の眺めが良さそうだが、老朽化のため周囲は立入禁止となっている。残念。その代わり、奥武蔵側の展望が得られ、名栗湖北岸の金比羅山、その向こうに二子山や伊豆ヶ岳、一番奥には奥武蔵の主稜線が長々と横たわる。今日一番の展望が得られて、ちょっと嬉しい。
尾根道はこの先で再び林道を横断し、木の階段道を下って三回目の林道横断となる。木の根が張り出した急坂の下りが続く。埼玉県警察山岳救助隊が自作したと思われる「転倒注意」の掲示が頻繁に現れる。実は私も一度尻餅をついた。左手を変に付いて、親指の付け根の母指球に血豆が出来て痛い😭。まあ、それくらいで大事に至らず良かった。
杉植林に覆われて単調な尾根道を延々と下り、ようやく尾根の末端に着いて、墓地の裏手から河内集落の民家に出る。有間川を橋で渡り、対岸の坂道を登って、さわらびの湯の第3駐車場に帰着する。5時間弱の短い行程で少々歩き足りない気もするが、白谷沢コースは変化に富んで楽しかった。ビギナーに向けて人気が高いのも頷ける。
それにしても今日は暑かった。早速、着替え一式を持って、さわらびの湯へ日帰り入浴でゴー。まだ正午過ぎの早い時間帯なので、あまり混んでいなくてのんびり湯に浸かる。さっぱりと汗と埃を流したのち、入間川沿いに走って日高市街を経由し、鶴ヶ島ICから関越道にのって桐生への帰途についた。