マムシ岳
桐生を早朝、車で出発。上信越道を下仁田ICで降り、南牧村から湯ノ沢トンネルを抜けて上野村に入り、群馬県道上野小海線を走って、長野との県境のぶどう峠方面に向かう。
県道上野小海線は、先刻承知の通り、昨年の台風19号の被害で中ノ沢林道分岐〜ぶどう峠の区間が通行止になっている。しおじの湯、中之沢集落を通過し、中ノ沢林道分岐の通行止のゲートの少し手前、キリンテ登山口の路側スペースに車を置く。その直前で、県道を歩くソロハイカーさんに会う。車を止めて行き先を伺うと、直登コース登山口からマムシ岳に登るとのこと。それでは、頂上辺りでまた会いますね、と話して別れる。
今日の登山計画は、『薮岩魂』のマムシ岳の記事そのまんまのコース。ここ(キリンテ登山口)からマムシ岳に登り、西へ縦走してマムシのコルからゲンナイ登山口に下り、県道を歩いて、ここに戻って来る予定だ。
ガードレールの隙間が登山口で、送電線巡視路の黄色標柱が立つ。ここから巡視路に入り、小雨期で水量を減じているが滔々と流れる日向沢を木橋で渡る。
対岸の山腹につけられた巡視路を登る。急斜面をトラバースする道型は落ち葉や土砂に埋もれて、足元が心許ない。川床からかなり高いところをトラバースしているので高度感もあり、滑落すればただでは済まない。初手から緊張させられ、尾根上に辿り着いてホッと一息つく。この地点はキリンテのコルと呼ばれている。
尾根上の巡視路は打って変わって歩き易い。露岩の多い細尾根を登ると送電鉄塔に着く。左側斜面の樹林が切り開かれて、船坂山の東尾根や品塩山、中ノ沢の谷間の奥に大蛇倉山を望む。
丸みを帯びた大岩を古い木梯子で越え、次の大岩は直登(巻き道もある)。樹林の中を急登すると、早くもボンデン山からの稜線が右上に見えてくる。中腹のこの辺りは見頃の紅葉が残り、鮮やかな赤もある。
やがて固定ロープが張られた岩場が現れる。最初は容易で、ロープに頼らず登れる。次の岩場は右にトラバースして躱す。ここは固定ロープがないと難しい。さらに、崖に近い岩場混じりの急斜面の登りとなる。長い固定ロープが張られ、足場が悪いのでほとんどゴボウで登る。途中、安心して休めるところがなく、必死でロープを手繰る。写真を撮る余裕はない。傾斜が緩んで、ようやく一息つく。マムシ岳、ちょっと舐めてました。ここは下りたくない。
しばらくなだらかな尾根を登り、小さな瘤を越えると再び大きな岩場が現れる。この岩場は階段状なので容易。バンドを伝ってジグザグに登るとボンデン山からの縦走路に合流して、キリンテの頭に登り着く。頂上は樹林に覆われ、展望はほとんどない。
キリンテの頭から西へ稜線を辿り、マムシ岳に向かう。小さなアップダウンのある細尾根を伝って、ゆるゆると高度を上げる。岩壁に突き当たって、固定ロープを頼りに攀じ登ると、ツツジ類や松に覆われた岩稜の上に出る。平坦な岩尾根を辿ると、三角点標石と古い山名標識のあるマムシ岳の頂上に着く。
頂上は南面の展望が開けて、左(東)に両神山、張付山、諏訪山、正面(南)に品塩山、大蛇倉山を望む。三角点標石より、少し先に進んだところが僅かに標高が高く、先週登った船坂山の左右にゆったりと稜線を延ばした山容と、奥に上信国境稜線の山々を眺める。
マムシ岳から西へ延びる稜線も一望できる。樹林を纏った小さな岩峰が連なり、アップダウンの多い稜線がうねりながら延びている。この岩稜歩きは面白そう。期待が高まる。二つ程先の岩峰の頂には休憩中の人影があり、今朝会ったソロハイカーさんに違いない。
北にも梢越しだが眺めが開け、頂上に岩稜を連ねたカイト山が、なだらかな山稜から一つ抜きん出て見える。遠方の薄らと冠雪した山並みは上信越国境稜線のようだ
しばらく頂上で展望を楽しんで休憩したのち、稜線を西進してメインディッシュの岩稜歩きに入る。風化してザラザラの岩稜を下ると、すっぱりと切れ落ちた岩壁の縁に出る。ここは右斜面の明瞭な踏み跡をジグザグに下ると、岩壁中段のバンドに着く。トラロープが張られているが切れていて、外傾したバンドをノーロープで辿る。距離は僅かだが高度感があり、慎重に通過する。
下り着いた鞍部から南に下る踏み跡があり、これが直登ルートのようだ。先程のハイカーさんには会わなかったが、どこに行ったのだろう。
稜線を直進して樹林の付いた岩稜を登り、切り立ったピークを巻いて岩稜を下る。手掛かり足掛かりがしっかりあるので(写真では険しく見えるかもだが)容易で楽しく歩ける。
さらに岩稜のアップダウンが続く。振り返ると大きな岩壁を擁するマムシ岳が眺められる。これはなかなか良い景色だ。
まだまだ岩稜が続き、一旦下って登り返すと、「松の木ピーク」の標識が赤松の枝にぶら下がる小ピークに着く。アップダウンの連続に疲れて、ここで一休み。木立に囲まれているが、合間から船坂山やぶどう峠が少し近づいて眺められ、カイト山の展望も得られる。
松の木ピークで岩稜の核心部は終わるが、このあとも岩場が多い稜線歩きが続く。通過できない岩場には巻き道があり、マーキングの類も要所にある。稜線を緩く登って、小さな瘤状のピークに着く。ここが1348m標高点だ。
このピークからは、まず、マーキングを辿って左へ戻り気味に斜面を下り、明瞭な稜線に乗って西に進む。振り返れば、大きな岩壁を巡らせた1348m標高点のピークを仰ぐ。1348m標高点の頂上を直進するとあの岩壁の上に出て、進退極まることになる。
さらに岩場を交えた稜線歩きが続く。自然林に覆われて雰囲気は良いが、展望が得られなくて、稜線歩きが段々長く感じられる。陽射しが差し込む小ピークに到着。ここで昼食休憩とし、カップ麺の鴨だし蕎麦を食べる。
昼食後、ちょっと下るとマムシのコルに着く。「上野楢原のシオジ植物群落保護林」の立派な看板が立ち、コルを越えて南北に道が通じるが、北面の道はかなり荒れている。さらに稜線を直進する踏み跡もあり、国境まで行けそうな感じがする。
南面の下山道に入り、ガレ斜面をジグザグに下る。延々と手摺りが設けられ、かつてはシオジ林の観察路として整備されたようだ。現在では道型がガレに埋もれて歩きにくく、利用されている様子があまりない。
やがて手摺りが途絶え、涸れ沢に沿って道型を下る。ところどころに送電線巡視路の黄色標柱が立つ。中腹まで下ると黄葉した樹林が広がり、陽射しに照り映えて綺麗だ。
沢筋にはいつの間にか水が湧き、コロコロと軽やかに流れ始めている。水流が増すと沢が荒れた個所に差し掛かり、道型が途絶える。辺りを見回して、対岸に微かな踏み跡を見つけて辿る。小滝が現れ、その下で右岸へ渡るとゲンナイ登山口は近い。
日向沢を鋼材を架け渡した橋で渡り、対岸の県道に出る。ここがゲンナイ登山口と呼ばれる地点だ。「北沢シオジ原生林自然観察路」の案内看板があり、それによると、北沢流域は宝暦年間以来、約260年の間、伐採されたことがなく、シオジなどの原生林が広がっているとのこと。これは訪ねてみたいかも。
あとは県道の通行止区間をテクテク歩いて下る。途中、道路が大きく崩落した所が数箇所ある。舗装が真新しい箇所もあるので、復旧に向けて工事は始まっているようだ。
中ノ沢林道分岐のゲートが通行止区間の終点となる。駐車地点のキリンテ登山口はこのすぐ先だ。県道から今朝登ったキリンテの尾根を見上げて、その急さを改めて感じる。
帰途について、少し車を走らせたところで、ソロハイカーさんが車道を歩いているのに追いつく。声を掛けると、しおじの湯に車を置いてあるそうなので、同乗頂いてお送りする。直登コースからマムシ岳に登ったのち、私と同じく、マムシのコルまで縦走してゲンナイ登山口に下ったそうだ。道理で、山中でお会いしなかった訳だ。
もちろん、しおじの湯には立ち寄って入浴していく。紅葉シーズンも終盤なのか、入浴客の数はそう多くない。ゆったり湯船に浸かる。
その後、久しぶりに信濃屋嘉助に立ち寄り、ブランデーケーキや和菓子各種をお土産に買う。南牧の道の駅にも立ち寄るが、とらおのパン初ゲットは残念ながら成らなかった。