前仙人ヶ岳〜仙人ヶ岳
関東甲信では8/1にようやく梅雨が明けた。昨夏は7月下旬から8月上旬にかけて猛暑日が続き、高山でなければ登る気が起こらなかった。今夏はそれに比べればまだ暑さのギヤが入っていない感じ。7月に二度、仙人ヶ岳周辺に出かけた際は、藪や虫に煩わされることもなく快適に歩けたので、三度目もありだな。実はまだ訪れたことがない茂倉(もぐら)のお釈迦様と、大昔に一度歩いてスリルで冷や汗をかいた朝日沢のコースを繋いで歩いて来ました。
前回と同じく、茂倉沢入口付近の路側に車を置く。道端の草藪にはでかい毛虫がいて、わしゃわしゃと葉っぱを食べている。黒白赤橙の彩りが鮮やかな初めて見る毛虫なので、写真を撮ろうとレンズを近づけたら、そっくり返ってプルプル震え始めた。後日調べるとフクラスズメという蛾の幼虫で、カラムシの葉を餌としている。毒は持たないが敵が近づくと首を振って威嚇し、身を守るらしい。辺りを見回すとあちこちにいた。
林道茂倉線に入り、舗装道を歩く。入って少しの地点の路傍に石祠と石仏がある。石仏は側面に「野州足利」の彫り込みのある馬頭観音像だ。
この先で「茂倉のお釈迦様 ここより約1km先」の道標に従って、左に分岐する作業道(林道茂倉支線)に入る。作業道入口には重機が置かれ、何やら工事が始まっている(今日は休日なので作業はなし)。工事区間は直ぐに終わり、杉林に囲まれた沢に沿って荒れた作業道を緩く登っていく。
作業道を歩きつつ、ふと左を見て、少し高い所に石仏がひっそりとあることに気が付く。これも馬頭観音かな。何やら銘があり、元文の文字が読み取れる。ますます荒れた作業道を辿り、たびたび沢を渡り返す。谷が左に折れて岩壁が迫ると、作業道は終点となる。
角を曲がると谷が狭まり、小さな滑滝が現れる。小滝と言っても登山靴では濡れた岩肌は滑り易く、要注意。続いて二段の小さな滑滝を越える。
滑滝の上流は再び平凡な沢となり、水際の踏み跡を拾ってゆるゆると沢を遡る。途中、道端にびっしりと苔に覆われた四角い石がある。参照したネット上の記録とは様子が異なるが、これが石灯籠の傘だろうか。
ここを過ぎると谷は二股に分かれ、赤テープに導かれて、正面の岩尾根に向かって微かな踏み跡を登る。岩尾根末端の岩壁には新しい崩壊の跡と落石があり、用心する。岩尾根の基部から左の谷へ、斜面をトラバースする明瞭な踏み跡が通じていて、これを辿る。
やがて谷が広がって、三方を岩壁に囲まれた緩斜面に入る。正面の岩壁には大きな岩窟があり、あれが仙人窟のようだ。杉林の間を登って岩窟の前に着く。岩窟の入口には石灯籠があり、中には釈迦如来の定印坐像の石仏が祀られている。想像以上に大きく、立派な石仏だ。肌理も滑らかで、ほとんど風化していない。これは見に来た甲斐があった。
岩窟の左脇には細々と水を落とす滝がかかっている。雨が降らなければ、水は涸れそうである。滝の左から回り込み(赤テープあり)、岩壁をトラバースして滝の上に出る。なお、岩窟の左上の尾根上には座禅岩と呼ばれる岩があるそうだが、訪問しそびれた。
水のない沢を登ると直ぐに浅い窪の急斜面となり、ここをひたすら直登する。窪に点在する岩場にはイワタバコが咲いている。行く手にシカの姿を見かけたが、写真が撮れる距離に近づく前に逃げていった。
一直線に急坂を詰め上げて、ようやく前仙人ヶ岳北尾根の上に登り着く。この地点には赤テープあり。ここと前仙人ヶ岳の間は、前回の山歩きで逆向きに歩いたばかりのところだ。古びたロープが下がる小さな岩場を過ぎ、少し登り返した所がつなぎ石跡で、紹石山神の石祠が残っている。
小さなアップダウンのある細尾根を辿ると、山火事で疎らとなった斜面が現れる。最後に短い急坂を上がって、連続3回目となる前仙人ヶ岳の頂上に着く。
山火事に起因する点で複雑な気持ちになるが、頂上からの南面の眺めは相変わらず良い。木陰に入れば微風が吹き抜けてそこそこ涼しい。腰を下ろして、パンとペットボトル飲料の昼食を摂る。自宅からの近さ、行程の手頃さから言うと散歩の山なのだが、その割には奥山の雰囲気もあり、眺めも良いので、続けて訪れても楽しめている。
頂上から仙人ヶ岳に向かって急坂を降りると、小ピークを連ねた稜線の先に仙人ヶ岳の頂がこんもりと盛り上がっているのが見渡せる。稜線の右(南)側は山火事跡地の伐採斜面だが、左(北)斜面の朝日沢源流域は鬱蒼とした樹林に覆われている。仙人ヶ岳の一つ手前のピークから朝日沢に落ちる尾根が見える。今日は仙人ヶ岳まで足を延ばして、あの尾根を下る予定だ。
振り返ると、半身がススキに覆われた伐採斜面となった前仙人ヶ岳を仰ぐ。この辺りが山火事の傷跡が一番深いように思う。稜線の左(北)側も根返りの倒木が多く、あちこちで地盤が崩落している。稜線上には、草藪と言う程ではないが、ススキが蔓延っている。
最低鞍部から少し登った地点に「↓一色線(黒川ダム)菱公民館方面」の道標が残っている。黒川ダムからのルートも数度歩いたことがある。黒川の谷を見おろすと、少し下の作業道まで見通せるが、そこまでの斜面はススキに覆われ、このルートは廃道化している。
焼けて倒れた木々の脇を登り、小さくアップダウンする稜線を進む。木陰がなく、陽射しを浴びて、かなり暑い。群馬・栃木県境上の小ピークに着くと「↓荒倉山 一色雷電山方面」の道標がある。荒倉山へのルートは山火事後に一度歩いたこと(山行記録)があり、現在も(ススキに覆われかけてはいるが)通行可能だ。
県境稜線を東へ進み、枯れ木と露岩の多い小ピークに着く。帰りはここから北に落ちる尾根を下る予定だ。山火事跡地はこの辺りまでで、樹林帯に入って緑陰のある稜線を辿り、仙人ヶ岳の頂上に登り着く。
到着時の頂上は無人で、さすがに8月に600m級の低山に登る物好きはいないよなー、と思ったら、反対側から年配ハイカーさんの団体がワイワイと登って来て、頂上はガヤガヤと大賑わいになった。コロナ、眼中になさそう(^^;)。団体から距離をとって一休みする。
やがて団体さんが下山し、静まり返った頂上を私も後にする。往路を少し戻り、小ピークから北に落ちる尾根に入る。踏み跡はないが藪もなく、問題なく歩ける。しばらく山火事跡が続き、露出した岩の間にアカマツの幼樹が育って、黄緑色の若葉を拡げている。これがもっと成育すると、ちょっと厄介な藪になりそうだ。
尾根を小さくアップダウンして進むと、松に囲まれた露岩の瘤に着く。この辺りは良い展望が得られ、緑に包まれた仙人ヶ岳や朝日沢の谷間を隔てて前仙人ヶ岳を眺めることができ、600m級の低山にしてはなかなか山深い趣きがある。
この先で尾根は切れ落ちた岩場に突き当たる。今回は念のため8mmロープを携行しているが、それを使う程の難所ではなさそう。左に少し回り回り込み、木立を頼りに岩場を下ることができた。
岩場を過ぎると樹林に覆われた穏やか尾根となり、グングン高度を下げる。最後は植林帯に入り、傾斜がきつくなってきたので、けもの道を辿って比較的緩やかな右斜面に降りる。植林中の浅い窪に入って下ると、程なく朝日沢の支流に着く。
水流に着き、まず、沢水で顔を洗い、汗を拭ってサッパリする。この沢の上流には鉱山跡があるそうで、沢沿いに微かな踏み跡が通じ、赤テープもある。踏み跡を辿って沢を下る。
数度、沢を渡り返す。やがて左からの沢と合流し、朝日沢本流の右岸に付けられた山道を辿る。この道は本流からかなり高いところを通っている。大昔(1996年1月)に歩いたときは、あちこちに朽ちた桟道が架かっていて、その通過が非常に怖かった記憶がある。
現在は桟道はなく、その代わり、幅は狭いが、歩く人が増えたのか良く踏まれた山道となって、通り易くなった気がする。とは言え、崩落した個所が一つあり、固定ロープで下から迂回したり、高度感のある道がしばらく続いて、滑落したらただではすまないので、注意して歩く。
谷が右に折れると穏やかな道となり、緊張が解れる。やがて作業道に出て、短い橋で支流の沢を渡る。
あとは未舗装の作業道をのんびり下る。途中の橋の欄干に「旭澤林道」のプレートあり。数戸の民家が点在する集落を抜けると桐生川左岸の車道に出、左に塩之宮神社が建つ。
駐車地点には15分程の車道歩きで戻る。計5時間強の軽い山歩きであったが、往復とも沢沿いのルートで変化があり、また、気になっていたスポットも探訪できて、とても楽しめた。
参考URL:やまの町桐生「上菱 茂倉 釈迦ヶ窪の仙人窟の如来さまへ行ってみた」「釈迦の窪」「茂倉沢〜仙人ヶ岳〜朝日沢」「仙人岳 つなぎ石哀悼」の各記事。