魚沼アルプス
この週末の天気は、関東一円では雨降りとの予報。新潟の方は天気が良さそうなので、そちらの山歩きに出かけようと考えて、ネットで情報を収集しているうちに、「魚沼アルプス」なるものを縦走した山行記録が多数あることに気がつく。
私は初めて知ったのだが、越後駒ヶ岳前衛で、道のない藪山だった黒禿の頭〜駒の頭〜トヤの頭〜鳴倉山の稜線に、近年、地元有志の方々により新しい縦走路が伐開され、これらの山並が魚沼アルプスと称されるようになった。新道により、大力山〜黒禿の頭〜駒の頭〜トヤの頭〜鳴倉山を周回する縦走が可能となり、黒禿の頭からの笠倉山往復も加えて、よく歩かれている(この周回コースを魚沼アルプス縦走とした山行記録が多い)。
紅葉の時期はとうに過ぎているが、好展望が期待できるし、行程は8時間程と長くて、歩き応えも十分。これはかなり面白そうなコースだ。という訳で、早速、出かけてきました。
未明の4時過ぎ、雨がそぼ降る桐生を車で出発。赤城ICから関越道に乗り、赤城高原SAで朝食にもつ煮定食をガッツリ頂く。関越トンネルを抜けると予報通り晴れているが、六日町辺りから濃い霧に包まれる。小出ICで高速を降り、ICに隣接する響きの森公園の山際の駐車場に車を置く。今日は魚沼アルプスを周回して、最後はここに降りてくる計画だ。
もう11月も末だし、ヒンヤリとした霧に覆われて肌寒い。冬用の厚手の長袖シャツとトレックパンツという出で立ちで歩き出す。登山口の宝泉寺までは、干溝(ひみぞ)の集落を通り抜けて15分程の距離だ。どの民家でも庭木が冬囲いされていて、雪を迎える準備が済んでいる。途中の干溝諏訪神社には、幹周7mという見事な欅の巨木がある。朝一番で参拝している地元のおばあさんと挨拶を交わす。
宝泉寺の本堂は向拝や外縁のないシンプルな作りの建物だ。玄関や窓は既に横板で塞がれて、ここも雪への備えがされている。左手に大力山登山口があり、「中部北陸自然歩道 板木城跡こぶしの道」の案内看板が建つ。この歩道は、大力山から板木城跡(城山)を経て西福寺に下るもので、春先に歩くのも良いかも知れない。
山道に入り、檜林の中、湿った赤土の道を緩く登る。道端には三十三番観音の石碑が祀られている。汗をかく間もなく、御堂が建つ平坦で広い頂に登り着く。ここで、宝泉寺から毘沙門堂を経由して来た歩道を合わせる。
御堂からは低木帯の尾根道となる。晴れていれば眺めが良さそうだが、相変わらず霧に閉ざされて、展望はない。すぐに送電鉄塔の脇を通る。「クマ出没注意!」の張り紙があり、読むと設置日が一ヶ月前と生々しい情報だ。この秋、魚沼市と南魚沼市ではクマ出没が異常に多発し、人身被害が何件も起きている。自宅の玄関先で襲われた例もあり、戦慄を禁じ得ない。いつもの山歩きではクマを気にしない私も、今回は流石に備えが必要な状況と思い、先日、amazonで熊鈴を買って、ザックの横にぶら下げている。澄んだ音が鳴り響くので、クマにぱったり出くわすことは避けられそうだ。
尾根道を登り、送電線巡視路を右、続いて左に分ける。やがて霧が晴れ始め、行く手に大力山の台形の頂が現れる。左手には霧に覆われた谷を隔てて、鳴倉山〜トヤの頭の稜線が朝日を浴びて青空にくっきりと連なる。振り返れば、山麓を覆う一面の雲海を見おろす。上空は快晴だから、じきに雲海も消えるだろう。今日は絶好の山歩き日和だ。体も温まってきたので、長袖シャツを脱いてTシャツ一枚になる。
傾斜が増してくると「七合目」の手製標識があり、左右に道が分かれる(この先で合流する)。ここは左の尾根道へ。急坂を上がって振り返ると、雲海の彼方に刈羽三山が浮かぶ。灌木帯の切り開き道となり、階段を急登するとベンチや東屋のある大力山の頂上の一角に登り着く。
大力山の最高点(504m標高点)はこの奥だが、東屋のある地点が大力山の頂上とされていて、「大力山山頂504.0m」の標識もここにある。頂上は低木に囲まれた広場となり、360度の展望が開ける。北西には魚沼盆地を覆う雲海を俯瞰し、南東には薄らと冠雪した越後三山(駒ヶ岳、中ノ岳、八海山)を仰ぐ。
素晴らしい眺めを楽しんで一休みしたのち、先に進む。最高点には何もないが、越後三山の眺めは良い。ここから少し急な下りとなり、右に板木城跡への歩道を分ける。鞍部から灌木帯の切り開き道を登ると、505m三角点の標石がある。
この先も展望に恵まれて気持ち良い尾根歩きが続く。振り返れば、こちらから見ても台形の山容の大力山を望み、頂上の東屋も見える。魚沼盆地を覆っていた雲海は範囲が小さくなった。トヤの頭から鳴倉山にかけての眺めも良く、谷間の霧はすっかり消えた。標高が上がるに連れて展望が広がり、下権現堂山、上権現堂山、唐松山の連山も見えてくる。
低木帯の尾根道を辿り、ひと登りして小さな瘤を越えると、行く手に黒禿の頭、笠倉山に連なるなだらかな尾根を一望する。この尾根歩きは開放的で快適だ。右側は日の当たる雑木林で明るく、一方、左側は大池川の源流域へ急峻に切れ落ち、日陰となっているのが対照的。遠望もさらに広がって、薄らと白い守門岳や毛猛山も見えてきた。
大展望を楽しみつつ、なだらかな尾根道をゆっくり辿る。673m三角点は尾根の途中のような場所だ。こちらの尾根上にも、ちらほらと雪が現れ、やがて道を薄らと覆うようになる。今シーズン初の雪を踏んで、黒禿の頭の頂上に登り着く。頂上からの展望は実に素晴らしいの一言。歩いて来た大力山からの稜線や、これから辿る鳴倉山への稜線、雲海が消えて現れた小出市街を俯瞰し、細波のように広がる魚沼丘陵の向こうに米山を見出す。
頂上の雪の上には新しい足跡があり、先行者が居たようだが、笠倉山へ向かう足跡はない。笠倉山への道に入ると、すぐに林道の深い切り通しに突き当たり、トラロープを伝って林道に降りる。手製の道標に従って、林道を右に辿る。気温が上がって雪が溶け、路面はビショビショだ。しばらく林道を辿ると広い駐車場があり、その奥に「笠倉山登山口」の標識がある。雪で滑りやすい坂道を登って、すぐ上に見えていた尾根に上がる。
尾根の反対側は切れ落ちた斜面で、下権現堂山から唐松山、そして桧岳、毛猛山までの展望が展開する。痩せ尾根上の雪道を登って小ピークを越えると、行く手に笠倉山の頂が見えてくる。あと少しの距離だ。
滑り易い急坂を、雪に埋れた固定ロープをひっぱり出しつつ登ると、三角点標石と山名標柱のある頂上に飛び出て、眼前に駒ヶ岳と八海山がドドーンと大迫力で現れる。中ノ岳は頂だけが駒ヶ岳の右肩に覗いている。険しく高くて、正に「俗界から隔絶した岩と雪の王国」。人を寄せ付けないような雰囲気がある。
駒ヶ岳から派生した郡界尾根(今は南魚沼・魚沼市の境)は、ギザギザの稜線を連ねてヨモギ山(989m)に至る。郡界尾根には道がなく、エキスパートの領域だが、ヨモギ山ならば何とかなるかな。登ってみたいな。
振り返れば、登って来た稜線とすっかり霧が晴れた魚沼盆地を俯瞰する。大力山からはずいぶん遠ざかり、遥々歩いて来たなあ、と感じるが、標高差は400mであまりないから、疲れもあまりない。11月は毎週山歩きが出来たお陰で、体調も良い。
北には、登りの途中でも良く見えていた下権現堂山、上権現堂山、唐松山、桧岳、毛猛山、守門岳、未丈ヶ岳が勢揃い、遮るもののない大パノラマが広がる。これらの山々のうち、桧岳と毛猛山は、まだ登ったことがない。登ってみたいな〜。課題が増えるな。
後から若いソロハイカーさんが2人到着。展望を堪能したのち、お先に頂上を辞す。黒禿の頭に戻ると、頂上の雪は既にだいぶ溶けている。少し早目の昼食休憩とし、缶ビールを飲んで、鯖味噌煮と鍋焼きうどんを頂く。その間、年配男性の2人組が大力山の方からやって来て、しばらく休んだのち、駒の頭に向かって行った。
これからが今日の行程の後半の部。駒の頭に向かう。灌木と丈の高い笹に覆われた尾根に、立派な切り開き道が通じ、急坂にはトラロープが下がる。
展望は随所で得られ、行く手に駒の頭、トヤの頭、鳴倉山が折り重なって眺められる。一旦下り切ると、雑木、杉檜、笹原に覆われて里山っぽさのある稜線となり、枯れ葉の積もる道のアップダウンが続く。648m三角点峰を越えると、トラロープが張られた急降下となり、檜と雑木の境を登り返して、駒の頭の頂上に着く。
頂上には道標の他に丸太ベンチが置かれ、先の年配2人組が座って食事中。休憩には、融雪で泥々だった黒禿の頭より向いている。展望も開け、次のピークのトヤの頭や、その頂上に至る急な登路も良く見える。あそこの登りは一苦労ありそうだ。
北東には山麓の芋川集落を俯瞰し、唐松山と毛猛山を遠望する。眼下の北東尾根にも、麓の湯之谷けんぽセンターから新道が拓かれ、その道の一部はここからも見える。これを登って、駒の頭、トヤの頭、涸沢山、桑原山(558m)を巡るミニ周回コースも楽しそうだ。
トヤの頭へ向かい、ブナとササに覆われた稜線を緩く下る。最低鞍部の手前で、トヤの頭に突き上げる急坂が眼前に迫る。標高差約100m。ファイト一発、頑張ろー。
登り着いたトヤの頭の頂上も360度の展望だ。振り返ると、駒ヶ岳と八海山を背景にして、笠倉山から黒禿の頭、大力山へと続く稜線と、下って来た稜線が眺められる。
トマの頭の隣のピークの方が僅かに標高が高く、「トヤ山」と書かれた古い道標が倒れている。雑木とササの稜線を下ると、行く手の眺めが開けて鳴倉山が現れる。灌木帯の切り開き道には多くの切り株が残り、新道開削の苦労が窺える。
最低鞍部には鏡ヶ池という小さな池があり、鳴倉山への急坂をロープを手繰って登るハイカーさんの後ろ姿が見える。対岸から池を振り返ると、鏡のように静まり返った水面に池辺の樹林が映っている。
灌木帯を急登して、最後のピークの鳴倉山に登り着く。頂上はなだらかに開け、ここも360度の展望が得られ、特に魚沼盆地が一望できる。先行の女性3人組ハイカーさんも居て、素晴らしい展望ですね、と挨拶を交わす。頂上はパラグライダーの離陸場所となっており、麓から未舗装道が通じている。折しも数台の車があり、おじさんが一人、離陸準備にかかっている。
ブロックチョコを齧って休憩したのち、下山にかかる。終始、展望が開けた楽しい下りだ。パラグライダーが飛び立って、頭上の高い所を旋回している。少し車道を下り、ズクナシ(根性無し?)の標柱から尾根上の山道を辿る。大西台の標柱のある地点で右に突き分けコースを分ける。やがてトラロープも張られた急坂に差し掛かり、眼下に干溝集落を見おろして急降下する。
僅かに登り返した小ピークには「→一本杉0.6KM」の道標があり、これに従って右折。送電鉄塔の下を潜り、なだらかな312m三角点峰を越えて少し下った所に一本杉がある。周囲の杉とは年季が違う古木だ。根元には3体の石仏が祀られている。休んでいると、先の3人組も追い付いて来て一休み。お菓子を一つお裾分け頂く。
一本杉からの下りも、道端に点々と観音像が祀られていて、興味が尽きない。この周回コースは最後まで楽しみが詰まっている。灌木帯から黄葉したブナ林となり、最後は杉林に入って谷に下ると、響きの森の奥の溜池の前に出る。車を置いた駐車場は、舗装道を下って直ぐだ。私の車の他、隣に1台、駐車が増えていた。
辺りには何やら異臭が漂っており、もしやクマ?と周りを見渡すが異常なし。登山靴を脱いでいると女性3人組も降りて来て、隣は彼女達の車であった。彼女らの話では、途中にクマの糞があり、誰かに踏まれていたとのこと。げげっ、気付かず踏んじゃった?と慌てて靴をよく見たが、そんなことは無くてホッとする。この間に異臭は消えていた。
帰りは「見晴らしの湯こまみ」に立ち寄る(600円)。なかなか賑わっていて、越後三山の見晴らしが評判の露天風呂は混み合って入れなかったが、今日はもっと近くで見ているから、のんびり内湯に浸かれば満足だ。小出ICから関越道に乗り、今日、登った山々をもう一度眺めて、桐生への帰路につく。関越トンネルを潜って群馬に戻ると、依然、雨がそぼ降る天気だった。