編笠山〜西岳
昨年の夏は八ヶ岳に集中的に出かけて、主なピークでまだ登っていないのは八子ヶ峰と編笠山くらいになった。今年はまだ雪のある山に登っていないので、この週末は雪山に出かけようと考えて編笠山を思い付き、富士見高原登山口から編笠山〜西岳を周回するコースを計画して出かけてきました。中腹から上にはたっぷり雪があり、久々の雪山歩きを楽しむことができました。
桐生を深夜に車で出発。北関東道、上信越道、中部横断道を経由し、南八ヶ岳の南麓を回り込んで登山口の富士見高原に向かい、富士見高原ゴルフコースの駐車場に車を置く。朝早いので広い駐車場に他の車はなく、ガランとしている。
朝食のパンを齧り、ペットボトル飲料で腹に流し込んで、歩き始める。冬用登山靴を履くのも久し振りだ。上空は灰色の雲が西から東へ勢い良く流れ、行く手の八ヶ岳も中腹より上は雲に覆われ、あまり天気は良くない。しかし、今日は予報では晴れとなっていたので、そのうち好転するだろう、と期待して先に進む。
すぐに未舗装の林道となってゲートを通ると、登山ポストと「富士見高原登山口」の案内看板がある。この案内には、ここから編笠山・西岳に登る場合は、長野県登山安全条例の定めにより、登山計画書の提出が必要、と書いてある。登山計画書はいつも通り、事前にコンパスから提出済。今回は加えて、初めてココヘリの発信機を携帯している。4月頭に、川場スキー場から武尊山への雪山登山でココヘリ義務化とのニュースを聞き、良い契機と思って加入した。私の山行はほとんどが単独なので、これ位の保険は掛けておくに如くはないだろう。
登山道に入り、カラマツ林の緩斜面をのんびり登る。ガレ沢を右岸に渡り、ゆるゆる登ると、林道と登山道が交叉する「五叉路分岐」に出る。左の林道は不動清水を経て西岳、右の林道は鼻戸屋展望台に通じる。直進してなおもカラマツ林の緩斜面を登ると「盃流し入口」の道標があり、ガレ沢を左岸に渡る。このガレ沢が盃流しかな。水は全くない。この先、林道を横断する箇所に「ここは標高1,590m。編笠山頂まで3時間30分」の道標が立つ。先は長いので、ゆっくりのペースを保って、単調な登りに没頭する。
やがて、登山道の左脇に「臼久保岩小屋」という大きな岩屋があり、中を覗くと天井から氷柱が垂れ下がっている。気温はそれなりに低いが、歩くと温まるので、ちょうど良い天候だ。岩屋を過ぎると傾斜が増して、地面をベッタリと覆う雪が現れる。今日はまだ他の登山者を見かけないが、最近、大勢が登ったらしく、ハッキリしたトレースが続いている。踏み固められた雪が凍ってツルンツルンに滑るので、6本爪アイゼンを付ける。
登山道は針葉樹林帯に入り、かなりの急斜面をジグザグに上がって行く。アイゼンが良く効いて、登りが楽しい。「標高2,000m」の道標を過ぎ、「標高2,100m」の道標に着くと傾斜が緩んで、なだらかな稜線の登りとなる。晴れ間が出てきて、時折、薄暗い林間に陽が差し込んで、雪道を照らす。
雪に埋もれた「名所シャクナゲ公園」の看板を過ぎる辺りから樹高が低くなり、高山らしい雰囲気となる。「標高2,300m」の道標を見るが、編笠頂上まであと1時間とあり、先はまだ長い。低い樹林を縫うように登って行くと、編笠山の頂上を覆う岩石帯に入る。振り返れば、雲に霞みつつも、仙丈ヶ岳から甲斐駒ヶ岳、北岳にかけての白銀の稜線が眺められる。登って来た斜面を俯瞰すると山麓は遥か下で、なかなか高度感がある。風を遮る樹林がなくなり、強風が間断なく吹き付けて、気温が急激に下がる。
岩石帯の登りは歩きにくく、最後はちょっとバテ気味になって、編笠山の頂上に登り着く。頂上は広くて四方に展望が開け、眼前に岩と雪を纏った八ヶ岳主稜の山々がドドーンと現れる。主稜線には雲が渦を巻いて流れ、冬山らしい光景だ。
頂上から青年小屋へ下るトレースはなく、雪が深い。この雪だと、西岳への道程で踏み抜き多発やルートミスがありそうだなあ、と思って、行くかどうか少し迷う。まあ、行けるところまで行ってみますか。風を避けてスパッツを付けていると、その間に二人組の登山者が頂上に到着し、写真を撮った後、青年小屋に向かって下って行った。これは心強い。
二人組がつけた新しいトレースを辿って下り始める。こちら側の斜面は雪が吹き溜まって、膝下まで積雪がある。ワカンを持って来なかったのは抜かったかも。樹林帯を抜けると広い無木立の斜面に出て、権現岳を正面、青年小屋を下に眺め、時折、ズッポリ踏み抜きながら、小屋を目指して下る。
青年小屋に下り着き、休憩中の件の二人組に挨拶する。如何にも山男という感じの屈強な面々で、これから権現岳に登るとのこと。ここから見上げる権現岳への稜線は高く急峻で、12本爪アイゼンとピッケルがないと無理そうだ。何よりも体力が持たないので(^^;)、権現岳は割愛する(元より計画に入っていない)。権現岳に向かう二人組の後ろ姿を見送って、ふと、ザックからカラビナでココヘリの発信機がぶら下がっているのに気付く。備えている人は、やはりいるんだねえ。
もう一人、単独行のおじさんが居て、話を伺うと西岳から来られたとのこと。これでトレースの心配はなくなった。小屋の前で風を避けて腰を下ろし、昼食にする。青空が広がって、缶ビール(小)が美味い天気になった。鯖味噌煮とカップ麺の坦々麺を食べて、後半戦のエネルギーを補充する。
昼食を終えて出発する頃には完全に晴れ上がり、風も凪いで絶好の雪山日和となった。青年小屋裏手の雪原から、針葉樹林帯の山腹をトラバースする道に入る。明瞭なトレースがあり、たまに踏み抜く他は心配なく歩ける。
雪に覆われたガレ沢を渡ると、ほぼ平坦で広い稜線上の道となる。ところどころの樹林の切れ間から、権現岳前衛のギボシの鋭鋒や編笠山の円頂が、青空を背景に眺められる。
楽しい雪山歩きが続くが、結構疲れているので、西岳は意外と遠くに感じる。短い急坂をえっちらおっちらと上がって、開けた西岳頂上に登り着く。
西岳からの展望も素晴らしい。先客が居り、富士見高原からの往復で西岳に登って来たそうだ。編笠山の序でではなく、西岳単独でも登る価値ありと思う。頂上には首のない石仏があり、信仰の山であったことが伺える。
展望を楽しんだ後、下山にかかる。しっかり踏まれたトレースがあり、やはり西岳のみを往復して登る人が多いのだろう。樹林帯を下ると途中でガレ場に出る。南アにかかっていた雲がだいぶ晴れて、稜線がよりはっきりと眺められる。再び樹林帯に入り、雪道を快適に下る。
徐々に傾斜が緩み、雪もグサグサになって来て、やがて薄くマダラ模様に残るだけとなる。それは、今回の雪山歩きの終わりが近いことを感じさせて、無事に登って来られたと安心すると共に少し寂しくもある。
林道を横断するところで、もう不要になったスパッツとアイゼンを外す。それからカラマツ林の緩斜面を下って、明るく開けた窪地に下り着く。ここが不動清水(長名水)で水場があり、冷たい水で喉を潤す。案内板によると、江戸時代には八ヶ岳信仰で不動明王を奉ったとのことである。あとは林道を下って五叉路分岐に出、往路を戻って登山口の駐車場に帰り着く。広い駐車場は何故か駐車で一杯になっていた。
帰りはすぐ近くのホテル八峯苑鹿の湯に日帰り入浴で立ち寄る(700円)。ここもお客さんが結構多い。近くで何かイベントがあったのかな。ゆっくり湯船に浸かって温まり、思いの外、疲れて強張った脚の筋肉を解す。お土産に干しリンゴを買い、道中、頰張りつつ(なかなか美味い)桐生への帰途についた。