高反山
桐生を朝8時に車で発ち、下仁田IC、湯の沢トンネル、R299を経由して、上野村勝山にある「道の駅上野」に9時半に到着する。今日登るのは、ここから金字形の山容が間近に見上げられる高反山(たかぞりやま)だ。標高差は600mくらいしかないが、正面の山肌は急峻で、なかなか立派な山に見える。
R299を隔てて道の駅の真向かいにある空き地に駐車して出発する。すぐ先の「←ドッグランうえの」と「←勝山神社経由檜峠へ」の道標から、勝山の集落の細い路地に入って行く。民家の手摺には大根や唐黍が天日干しされていて、山村らしい風景を久しぶりに見て和む。
道標に導かれて集落を抜け、畑を横切って裏手の山間に入ると、「ドッグランうえの」がある。入り口の建物の屋上には場内を照らす投光器が並んでいるので、夜も犬を走らせるのかと思ったが、そうではなくて、かつてゴルフ練習場だったときの設備がそのまま残っているらしい。今日は一匹のワンコもいなくて、静まり返っている。
「ドッグランうえの」の前を横切って短い階段を登ると、山麓の集落を見守る高台に勝山神社が建つ。神社の裏手の車道を登り、電気柵を開け閉めして通過する。そこから檜峠までは僅かの登りだ。峠には簡易水道浄水場があり、その入り口には数基の庚申塔が建っている。峠を越えて下る道は乙母(おとも)の集落に通じているようである。
峠には「←高反山」という新しい道標があるが、それが指し示す方向は草藪に覆われて、道らしいものは見当たらない。仕方ないので草藪の薄いところ搔き分けて歩き始めると、センダングサの実がズボンにたくさん付いてしまった。すぐに掘割状の作業道に出て、これを辿って登る。落ち葉がふかふかに積もっていて、あまり人が歩いた様子がない。
やがて明るい雑木林の中の登りとなり、周囲にはハッとするような色鮮やかな紅葉もある。もう終わりだろうと思って、紅葉には期待していなかったので、ちょっと嬉しい。
送電鉄塔を過ぎると幾度か作業道が分岐するが、要所に道標がある。右手に山腹をトラバースする作業道を分けて、尾根上を登る。この先は道型がはっきりしなくなる。左手には、雑木林を透かして笠丸山の岩峰を見ることができる。
尾根上の急坂に差し掛かると、道型は左の山腹をトラバースし始める。ここには「←高反山 檜峠→」の道標があるが、道標の示す高反山への道がトラバース道なのかは、方向が微妙な感じ。後述の通り、トラバース道が登山道で正解だが、ここは尾根を直登するルートをとってみる。疎らな雑木林の急坂を登ると、ほどなく帯状の岩壁に突き当たる。
登れそうな個所を探して岩壁基部を右に回りこみ、立ち木と岩角を手掛かり足掛かりにして、岩場混じりの急斜面を攀じ登る。実に西上州の山らしい。途中から赤テープがあり(登り口はもっと右だったようだ)、トラロープも張られている。岩壁の上部に出てもしばらく岩場の急登が続き、頂上西の平坦な肩に躍り出る。「←檜峠」という道標があるが、指している方向は直登ルートではない。やはりトラバース道が登山道だったようだ。
冬枯れの雑木林に覆われた稜線を緩く登ると、三角点標石と山名標識のある高反山の頂上に着く。周囲の樹林は最近に伐採されて、頂上は明るく開け、木の間越しだが周辺の山々が良く眺められる。
頂上から南に僅かに下った所に岩場があり、断崖絶壁の岩頭になっていて、南面の展望が良い。眼下には神流川が光って蛇行し、勝山集落や道の駅上野、そこに駐車した私の車まで俯瞰できる。その向こうには上武国境のギザギザな稜線が連なり、赤岩尾根や大ナゲシ、天丸山、帳付山が指呼の間にある。素晴らしい展望だが、岩場の上は狭い上に、落ちたら一巻の終わりなので、あまり寛げる場所ではない。頂上に戻り、鍋焼きうどんを作って昼食とする。少々冷たい風が吹くが、陽だまりにいれば暖かい。
下山コースはどうしようか。頂上から東の稜線にも道があり、「←勝山集落」の道標もあるが、トラバース道の様子が気になるので、西の肩まで往路を戻る。そこから「←檜峠」の道標に従って、西北西に落ちる尾根を下る。直登ルート程ではないが、こちらも結構な急坂である。傾斜が緩むと道標があり、ここで左に折れてトラバース道に入る。ザレた急斜面に付けられた踏み跡はか細く、踏み外さないように注意して通過すると、直登ルートとの分岐に戻る。
往路の尾根を少し下り、途中の「←勝山地区」の道標から作業道を左に辿って、送電線巡視路の黄色い標識から南に落ちる尾根に入って下る。急な尾根だが、巡視路なだけあって歩きやすい。送電鉄塔に着くと眺めが開け、既に高くなった高反山の頂上を振り返る。
なおも尾根を一直線に降りると、荒れた林道に下り着く。あとは林道を歩くだけである。林道を左に進むとジグザグを切って山腹を下り、しばらく渓流に沿って下ったのち、山麓に出る。振り返ると高反山が、青空の中に高く反り返っている。小さい山だが、西上州らしくピリッと険しい所もあり、何よりも頂上からの展望が素晴らしかった。また、山中ではハイカーさんに全く会わず、静かな山歩きが楽しめた。なかなか面白かったなあ、と満足しつつ、駐車地点の道の駅上野に戻る。
帰りは向屋♨ヴィラせせらぎに日帰り入浴に立ち寄る(JAF会員は500円)。温泉に入って温まると気持ち良い季節になった。それから、南牧村のお気に入りの菓心処、信濃屋嘉助で和菓子を土産に買い求め、桐生への帰途についた。