虫倉山
19日(金)に長野に行く用事ができた。長野は桐生から十分に日帰り圏内だが、折角の機会なのであちらに一泊して、翌日の土曜に虫倉山に登る計画を立てて出かけてきました。
19日は車で長野に行き、用事を済ませたのち、裾花川に沿ってR406を走り、今宵の宿の信州小川村大洞(おおどう)高原にある「星と緑のロマン館」に向かう。小川村は「にほんの里100選」にも選定されたという山村風景の美しさ、標高約1000mの大洞高原からの北アの展望、それと天文台があることで知られていて、以前から訪れてみたいと思っていた場所だ。
ロマン館は平日の夜とあって、私の他の宿泊者はご夫婦が1組のみ。大浴場で湯に浸かり、食堂で夕食を頂いたあとは、部屋でのんびり過ごす。宿を切り盛りしているおばさんの話によると、今年の夏は天気が悪く、天体観測のために連泊した学生グループが、結局、星を見ることができずに帰ったりしたことがあったそうだ。この日も曇りで、夕焼けの北アや星空は見られなかった。
翌朝も天気は曇りがち。北アもまたまた残念ながら見えない。チェックアウト後、車は駐車場に置かせて貰って出発。まず、ロマン館裏手の丘に建つ小川天文台に上がってみる。ここは(説明は省くが)知る人には知られている場所で、今回の目的地の一つでもある。
虫倉山へは、まず大洞高原を南に緩く下る。山上に棚田が広がり、民家が点在する長閑な山村風景の中をのんびり歩く。虫倉山の南麓を巡る車道に入り、いくつかの集落を通り抜ける。途中、馬頭観音などの多くの石仏を見かける。
車道を辿って味大豆(あじまめ)の集落を過ぎると、地すべり観測センター(無人)がある。説明板によると、この辺りはフォッサマグナ地帯で砂岩と泥岩を主体とする脆弱な地質のため、県下有数の地滑り地帯とのこと。また、この下の棚田が広がる谷間には、地滑りから生活を守るため地元民自らが明治19年に建設した石堰堤群(薬師沢石張水路工)があり、今日まで砂防施設として受け継がれ、国登録有形文化財に指定されて散策道が整備されているそうだ。これは興味を惹かれるので、見学して行くことにする。
散策道を下ると現代のコンクリ堰堤があり、その下流に自然石を組み合わせて川床を覆った堰堤が連続する。薬師沢とその支流に計28個もの石堰堤が現存するとのこと。どれも棚田と周囲の自然の風景にすっかり溶け込んでいる。この点は現在の砂防堰堤の建設でも見習って欲しいと思う。石堰堤はいずれも長さ数m程の小さなものだが、最下流にある富吉沢の物は高さ26m、水平長さ63mの偉容を誇る。当時の人々が工夫を凝らして人力で作り上げたものとのこと。
散策道終点から富吉集落に上がり、寄り道ついでに矢花の地蔵菩薩にもお参りする。素朴な像容だが、高さ1.5m程の立派なお地蔵様だ。この辺りの山村風景もなかなか良い。
ちょっと寄り道のつもりが、面白くて散策道を終点まで歩いてしまった。車道を戻り、虫倉山の薬師コース登山口に到着する。ここは地すべり観測センターの目と鼻の先である。結局1時間半もの道草となり、結構歩き疲れたが、ここからが山歩きの本番である(^^;)
山道に入り、小さな沢を渡って薬師尾根末端を急登すると、中腹に薬師洞窟がある。天然の洞窟に本尊の薬師如来を中心に19体の様々な石仏が祀られている。登山口の説明板によると、元禄年間に木喰上人が洞窟に籠って彫ったものとのこと。
薬師洞窟の先へ進むと、尾根を登って見晴らしの良い岩場の上に出る。大洞高原の集落が良く眺められ、遥か向こうには雲の間に北アの稜線が(写真では分からないが)僅かに覗いている。
岩場を絡んで急登すると、雑木林に覆われた緩やかな尾根道となる。平坦な尾根の上に取り残されたかのような二対の巨石が現れ、夫婦岩という道標が立つ。
さらに尾根を緩く登ると、カラマツ林を切り開いた広場に小さく盛り上がる塚がある。「土塚」という立て札があり、それによると「江戸時代、この場所は先人たちが山境を争い、風化しずらい炭を盛って界を示したと云われています。」とのこと。なるほど〜。
ここから少し急な登りとなり、虫倉山系最高峰の明神峰に着く。樹林に覆われて展望もなく、何の変哲もないピークである。すぐ先で縦走路に合流する。左は下山コースに予定している大洞高原への道だ。右の虫倉山へ向かう。
右から不動滝コースを合わせると、急にハイカーさんが多くなり、ひと登りで虫倉山の頂上に着く。狭い頂上ではグループのハイカーさんが休憩中で賑やかだ。北には戸隠連峰、東には善光寺平が木立越しに見え、南から西にかけては遮る物のない展望が開ける。残念ながら北アは雲の中だ。頂上南面は急斜面で、麓の集落を眼下に覗き込む。腰を下ろして小休止。ロマン館で買ったお団子とペットボトルのお茶で軽い昼食とする。
グループのハイカーさんが下山して、急に静かになった。私もそろそろ下山するとしますか。明神峰まで往路を戻り、大洞高原への縦走路に入る。こちらもブナや雑木林の中によく踏まれた尾根道が続く。次のピークには三角点標石と大洞山(牛首)との山名標がある。ここも樹林に覆われた地味な頂きだ。
大洞山のすぐ先で縦走路から右の枝尾根に入る。踏み跡はあるが、蜘蛛の巣が多い。やがて距離はごく短いが両側が切れ落ちた痩せ尾根となり、北アの方向の眺めが開ける。この辺りが鬼座峰と呼ばれる地点だろう。
戻って縦走路を辿ると、アルプス展望所という道標がある。展望所と言っても、木立の間から垣間見える程度である。
ここからやや大きく下って、東大洞峠に着く。未舗装の林道が峠を越えて通じている。ここから飯縄山への登りとなり、杉林の中に咲くサラシナショウマを見ながら黙々と歩く。
やがて登り着いた飯縄山頂上には、杉木立と草叢に囲まれて稲丘神社の社殿が建つ。説明板によると、稲倉魂命を祭り、創建は833年。明治年代に飯縄神社から改称されたとのこと。草叢を通ったときに大量のヌスビトハギの実がズボンにくっついて、取り除くのにすごく手間がかかって往生した。
稲丘神社からは幅広い道を下るとやがて舗装道となり、あとは車道を辿って大洞高原に下り着く。途中、ショートカットの遊歩道もあるが、草藪があって歩く気にならないし、距離も大して変わらない。大洞高原では、車で来ている家族連れが数組、BBQしたり、芝生で犬と遊んだりしている。青空も広がって、穏やかな行楽日和となっていた。今日は、山歩きよりも山村散歩で随分歩いた気がする。ロマン館の駐車場に置いた車に戻り、桐生への帰途についた。