自在山(岩井堂山)〜大林山〜摺鉢山

天気:のち
メンバー:T
行程:びんぐしの里公園 7:00 …自在山登山口 7:15 …自在神社 7:35 …自在山(793m) 8:10〜8:15 …千曲市新山分岐 8:35 …送電鉄塔 8:45 …反射板 9:15〜9:30 …九竜山(1168m) 9:55 …大林山(1333m) 10:15〜10:50 …九竜山 11:00 …風越 11:30 …967m三角点峰 11:45〜12:10 …室賀峠 12:35 …摺鉢山(881m) 13:00〜13:15 …三水城跡(790m) 13:55〜14:05 …狐落城跡 14:20 …十六夜観月殿 14:40 …びんぐし湯さん館 15:00 …びんぐしの里公園 15:05
ルート地図 GPSのログ(赤:往路、青:復路)を地理院地図に重ねて表示します。

予報によると、この週末の関東の天気はどこも今一つ。土曜日の長野県が晴れそうである。アプローチが良くて桐生から気軽に日帰りで登れ、かつ、トレーニングも兼ねてガッツリ歩ける山がないかなあ、と考えつつ『信州ふるさと120山』を読み返し、千曲川川西山地の大林山(おおばやしやま)に目が留まった。

大林山についてググると、ステキさかき観光協会がヒット。ここで紹介されている「自在山・九竜山コース」と「狐落(こらく)・三水(さみず)城コース」を繫ぐと、坂城町から自在山〜大林山〜摺鉢山を周回する長〜いコースが取れそうである。実際にこの周回コースを歩いた山行記録もヤマレコ等にある。その上、スタート/ゴール地点には、びんぐし湯さん館という、とても良さげな日帰りまである。これは行くしかないでしょう。

なお、山名について。自在山は、国土地理院の地形図には岩井堂山と記載されている。頂上に坂城町が設置した山名標には「自在山(岩井堂山)」とあった。他に、唐傘山、焼飯山の別名もあるようだ。大林山は「だいりんざん」と読まれることもあり、上田市室賀地区では氷沢山(ひざわやま)と称している。この記事では自在山、大林山と表記します。

ロングコースなので、早めの4時半に桐生を車で出発。太田藪塚ICから高速に乗り、途中、横川SAで朝食を摂る。群馬県内では小雨が降っていたが、長野県に入ると青空が広がり、行く手に白い北アが連なってテンションが上がる。坂城ICで高速を降りると、千曲川の向こうに見事に整った円錐形の自在山が見える。千曲川を渡り、びんぐしの里公園の駐車場の隅に車を置く(湯さん館にも広い駐車場があるので、そちらに駐車してもOK)。


びんぐしの里公園駐車場
背景に自在山


リンゴの花

WCを済ませて、7時に歩き始める。上平(うわだいら)の集落を横切り、自在山の麓に向かう。天気は上々。長野と言えばリンゴ。あちこちのリンゴ畑では花が満開だ。集落の奥に大林山前衛の九竜山を高く仰ぐ。なお、大林山は大部分が九竜山の奥に隠れ、その頂はここからはほとんど見えていない。

狭い路地を入った奥に「自在山登山口」「烽火台跡登山口」の道標があり、すぐ奥に「自在神社」の大きな幟が二本見える。幟の間を登り、鳥居を潜ると太々神楽殿が建つ。その左隣に「自在山・九竜山コース」の案内標識があり、獣除けの頑丈な柵をゲートで抜けて、自在神社への参道石段を登り始める。


上平集落より九竜山を望む


太々神楽殿

参道石段は、鮮やかな新緑に包まれた急斜面を一直線に登って行く。途中の赤鳥居でもまだ神社までの半分に達していない。これは初手からなかなかの登り応えがあるな。

石段を登り詰めると、石垣の上に綺麗な芝生に覆われた意外と広い境内があり、大岩を背にして立派な本殿と拝殿が建つ。境内には「享保十四己酉(1729) 奉寄進石燈籠一双所求成就 林鐘三 五月」と刻まれた石灯籠二基もあり、昔から信仰されていたことが窺える。


参道石段を登る


自在神社

神社から山道に入り、風化した岩肌にアカマツが生える急斜面を登る。この山は9〜11月には松茸山(止山)となり、入山が禁止される。入山者は罰金50万円とか100万円を徴収するぞ、との警告看板があちこちに掲げられていて、今日は入山OKだが、脅された気分。

途中に霊神碑がある。この山と同じ質の岩を用いて、「村明霊神 訓導 山辺平之助」の文字が刻まれている。この霊神碑については、偏平足さんのブログに岩井堂山(長野)霊神碑の記事がある。


アカマツ林を急登


村明霊神碑

なおもアカマツ林の斜面を登って、自在山の頂上に着く。頂上は窪んだ平地となっており、説明板によると、周囲に土塁を巡らした城跡(烽火台跡)だそうだ。樹林に囲まれて、展望は得られない。三角点標石の他、二つの宗教的石造物がある。一つは「摩利支天」の小さな石碑で、裏に「山辺鹿之助」と刻む。もう一つは「國常立尊 國挾槌尊 豊斟渟尊」の大きな石碑で、側面には「上平村講中」と刻む。どちらも荒削りの岩に深くくっきりと文字が刻まれている。

後日調べると、国常立尊(くにのとこたちのみこと)、国狭槌尊(くにさつちのみこと)、豊斟渟尊(とよくむぬのみこと)は日本書紀に記され、天地開闢の初めに現れた天神七代の最初の三神だそうだ。これらの石碑についても、偏平足さんの記事が詳しい。


自在山(岩井堂山)頂上


國常立尊碑

頂上から九竜山へ向かう。数本の空堀を越え、アカマツ林や新緑の雑木林に包まれる尾根を緩く下る。なかなか快適な道だ。やがて鞍部に下り着き、右から上がってきた作業道に合流する。「千曲市新山→」という道標が右の作業道を指し示している。そちらの道は、軽四駆ならば通行できそうである。

尾根上に続く作業道をしばらく辿ると、送電鉄塔に着く。左右に樹林が切り開かれて、上平の集落や坂城の市街が眺められる。作業道はここから正面の急な尾根筋を避け、左山腹をトラバースして巻く。再び尾根の上に出ると、幅広く平坦な斜面に浅く窪んだ山道が続く。道には落ち葉や枯れ枝が積もって、歩かれている雰囲気があまりない。


千曲市新山分岐


送電鉄塔


山腹をトラバース


広く緩い尾根を登る

ゆるゆると登ると、反射板に着く。少し手前に道標があり、県道大町麻績インター千曲線からの山道が合流する。反射板から坂城市街方向の樹林が伐採されて眺めが開け、既に少し下になった自在山の頂上や坂城の東を取り囲む山並みを望み、根子岳と四阿山を遠望する。ちょうど伐採されて転がっている丸太をベンチ代わりにし、水を飲んで休憩する。


中部電力大林山反射板


反射板より坂城市街を望む

反射板のすぐ先に道標があり、右に八頭山経由で大林山に向かう道を分ける。ここは左の直登コースへ。尾根を辿ると、非常に急な坂が九竜山直下まで続く。標高が上がったため、周囲の雑木林はまだ冬枯れのままだ。斜面には枯葉が積もり、カタクリがポツポツ咲いている。道型は不明瞭だが、手摺となるトラロープが張られている。ここは急過ぎて、あまり下りには歩きたくない。

ようやく、大林山と室賀峠を結ぶ稜線上の1168m標高点に登り着いて、激坂も一段落。ここはピークではなく、肩のような小平地である。ここから大林山を往復したのち、室賀峠に向かう予定。大林山に向かうと、すぐ先に「九竜山山頂 標高1,168m」の道標がある。しかし、ここは登りの途中で山頂では全くなく、謎の場所に山名標がある。上平から仰ぐと、この辺りが最高点に見えるのだろう。


九竜山への急登


九竜山頂上

尾根を登り、室賀小が設置した8合目の標識の付近で、南麓の室賀集落からの登山道を合わせる。9合目の標識を過ぎ、緩い尾根を辿ると、大林山の頂上に着く。


大林山8合目付近


大林山頂上

大林山の頂は樹林が切り開かれて小平地となり、眼前に北アの大展望が開ける。今日はこれほど眺めの効く天気とは期待していなかったので、白銀輝く山並みがドドーンと連なる山岳展望に接して感激。燕岳から蓮華岳、爺ヶ岳、鹿島槍ヶ岳、五竜岳、唐松岳、白馬岳までズイーッと眺められる。前景の聖山(1447m)もまったりと大きな山容が目を引いて、一度訪れてみたい。

北にも戸隠連峰、高妻山、頸城山塊を遠望する。前景の冠着山(1252m)も台形のピークが目を引く。南には塩田平と北八・蓼科山、美ヶ原を遠望する。いやー、素晴らしい展望だ。昼食には早い時間なので、レトルトパウチの鯖味噌煮と缶ビールだけを戴きながら、展望をじっくり楽しむ。山頂の一角には薪が積まれ、焚き火の跡もあるので、初日の出登山が行われているらしい。冬季の北アの眺めは、さらに良いだろうな。


大林山より聖山(前)と
北ア・蓮華岳〜唐松岳の展望


大林山より冠着山(左)と
高妻山、火打山の展望

展望を堪能したのち、山頂を辞す。往路を九竜山へ戻り、分岐点は右へ。室賀峠に向かって、急な尾根をぐんぐん下る。道型がやや不明瞭だが、尾根を外さなければ問題ない。冬枯れの雑木林に日が差し込んで、カラッと明るく気持ち良い下りが続く。


室賀峠への分岐点


急な尾根を下る

小さなアップダウンを経て、風越の鞍部に下り着く。道標があり、左に九竜池を経て上平に下る道を分ける。室賀峠への道は不明瞭だ。とにかく、目の前の一番高い所を目指し、三角点標石のある967m峰に登り着く。ここの標石(四等、点名:氷沢)は側面に「地理調」と刻まれているもので、この種のものは私は初めて見る。そろそろ昼食に良い時間だ。陽だまりに腰を下ろし、カップ麺の鴨だしそばを作って食べる。


風越


967m三角点峰

この先も道型が薄い尾根を辿るが、林道を横断すると広く刈り払われた良い道となる。所々の伐採跡地から、坂城市街や自在山の眺めが得られる。標高が下がり、緑が増えてくる。カラマツと雑木に覆われた尾根を緩く降り、送電鉄塔の横を通って室賀峠の車道(県道上室賀坂城停車場線)に下り着く。ここには「自在山・九竜山コース」の道標がある。


林道を横断して尾根道に入る


自在山を望む
後方は五里ヶ峯と鏡台山


幅広く緩い尾根道を下る


室賀峠

車が全く通らない車道を室賀側へ歩くと「狐落・三水城コース」の道標があり、コンクリ吹付の法面をトラロープでちょいと上がって、再び尾根上の登山道にのる。小さなアップダウンのある尾根はカラマツや雑木の新緑に覆われて、里山の雰囲気。緩く登ると道標があり、左に三水城跡経由十六夜観月堂への道を分ける。右の道を辿り、最後は短い急坂を登り上げて摺鉢山の頂上に着く。


摺鉢山への登り口


アカマツの尾根を緩く登る


三水城跡への分岐点


摺鉢山頂上

頂上は小平地となり、三角点標石と山名標識がある。樹林に囲まれているが、塩田平方面の眺めが開け、また西麓を俯瞰すると室賀集落が近くに見える。振り返ると木の間を透かして、大林山が遠く高くに眺められる。結構歩いてきたなあ。さすがにちょっと疲れたので、水とクッキーを補給して長めの休憩を取る。


摺鉢山から室賀集落を俯瞰


摺鉢山から大林山を望む

あとは下りだから楽だろう。分岐に戻り、三水城跡への尾根道に入る。最初は緩く下るが、やがて細い尾根の上の意外とアップダウンのある道となり、実はそう楽ではない。しかし、緑が綺麗で林間にはヒトリシズカが咲き、ヤマザクラも満開。気分良い里山ハイキングコースだ。


三水城跡への尾根道


ホタルカズラ


新緑の尾根を辿る


ヤマザクラ

短い急坂を登り上げると、三水城跡の頂上に着く。この頂も小平地が開け、千曲川や坂城市街を俯瞰して抜群の展望がある。昨年登った虚空蔵山が鋭角なピークを擡げて目を引く。自在山もここから眺めると、その端正な円錐形の山容の全貌が分かる。大林山から冠着山にかけての稜線も、ここから仰ぐとなかなか高い。


三水城跡


三水城跡から虚空蔵山を望む


三水城跡から大林山を望む


三水城跡から自在山を望む

周回ルートのゴールまであと少しだ。細い尾根を下る。所々にトラロープが張られ、かなり急だ。狐落城跡は樹林に囲まれて、眺めは良くない。一段下った所に文字が掠れた説明板がある。それによると、戦国時代、この城は村上義清の支城だったが、信濃に侵攻した武田信玄に落とされ、北に逃れた村上氏は上杉謙信を頼り、川中島合戦に至ったのだとか。そんな歴史の舞台だったとは、興味深い。


急な尾根を下る


狐落城跡

狐落城跡からますます急な尾根を下る。右側は千曲川に向かって急斜面で切れ落ちて、転落注意。途中で女性ハイカーさん2人組と交差する。この日、山中で会ったのは、結局このお二人だけ。


ロープを頼りに急降下


千曲川を俯瞰する
背景は虚空蔵山〜和合城跡の稜線

「山の神」と刻んだ岩の辺りで傾斜が緩み、ようやく尾根の下りも終点である。石造の句碑がたくさんあり、藁葺き屋根の十六夜観月殿に着く。これも説明板によると、この地は古来より更科八景に数えられ、展望と観月の景勝地として知られ、多くの雅客が訪れて句を残しているのだとか。千曲川を挟んで坂城市街と背景の山並みを望み、確かにここで月見をしたら風流かも。


「山の神」石碑付近の下り


十六夜観月殿

村上大國主魂社の横を通って車道に下りる。あとは車道をテクテク歩いて、駐車地点に向かう。途中、鬢櫛山の尾根を越える所にびんぐし湯さん館がある。ここからびんぐしの里公園の中の近道を下る。公園内にはテニスコートや体育館、遊園地や花壇などの設備が整い、朝は誰もいなかったが、この時間帯は家族連れや子供の集団で大賑わいだ。


車道に出て歩く


びんぐし湯さん館


びんぐし湯さん館から九竜山を望む


びんぐしの里公園に帰着

車に戻り、早速、びんぐし湯さん館へゴー(500円)。浴室はゆったり。広い窓の外に露天風呂があり、中に居ても露天でも坂城市街の眺めが良い。ロングコースを歩いて凝った足の筋肉をよくほぐす。山歩きの後の温泉は、やっぱり最高。この周辺の山にはまた来ようと思いつつ、坂城ICから高速に乗って桐生への帰路についた。