ブドー沢ノ頭〜滝谷山

〜23日(日)
メンバー:T
ルート地図 GPSのログ(赤:1日目、緑:2日目)を地理院地図に重ねて表示します。

神流川源流域で西上州の最奥部とも言える山域にかかる上武国境稜線には、ブドー沢ノ頭、滝谷山、ガク沢ノ頭など1600m級の山が連なっている。いずれの山にも一般登山道は通じていないが、国境稜線や、南天山あるいは諏訪山からの尾根の上には微かな踏み跡があり、いわゆるハイグレード・ハイキングを指向するハイカーによって登られている。

今回、3連休の始めの2日間の天気が良いとの予報なので、久し振りにテント泊単独行がやりたくなった。高峰での幕営は寒過ぎてもう無理だが、西上州の1600m級の山ならば、天気次第でまだまだ大丈夫だろう。群馬県側からの周回コースでブドー沢ノ頭と滝谷山を目指す1泊2日の山行を計画して、出かけてきました。

11月22日
天気:
行程:しおじの湯バス停 6:50 =(バス)= 乙父大橋バス停 7:10 …送電線巡視路入口 7:30 …大天幕ノ頭(1026m) 8:45〜8:50 …社壇乗越 9:40 …馬道のコル 10:50 …天丸山(1506m) 11:15〜11:25 …馬道のコル 11:50〜12:30 …帳付山(1619m) 13:40〜14:00 …ブドー沢ノ頭(1658m) 15:15(泊)

桐生を車で未明の4時半に出発。下仁田IC、湯の沢トンネルを経由して上野村に入り、浜平温泉しおじの湯に到着。早朝なので、ひと気は全くない。駐車場の隅っこに車を置く。今回は、ここに下山して来て即入湯という、実にナイスな山行計画を立てている。

しおじの湯バス停から、6:50発の新町駅行のバスに乗る。定員15名のマイクロバスに乗客は私一人だけ。R299の旧道を走り、乙父大橋バス停で下車する。運賃は400円也。目の前には神流川がトウトウと静かに流れ、古色蒼然とした乙父大橋が架かり、対岸にこれから登る尾根を見上げる。


しおじの湯バス停


乙父大橋バス停

ザックをよっこいしょと背負い上げて歩き出す。このザック(Osprey aether 70)は容量がでかくてパッキングがいい加減でも収まり、軽量化を迫られないので、今回の背負い荷は水分3ℓ+アルコール少々を含めて15kg強と、私にとっては少々重くなってしまった。まあ、ゆっくり行くとしよう。

乙父大橋を渡り、R299の新道の高架下を潜って最初の左への分岐を折れ、乙父沢川を渡る。折り返して山腹を緩く登り、尾根末端の広く平坦な畑地に出る。小敷平Aとの標識があり、朝日が差し始めた乙父集落が一望される。

送電線巡視路を示す黄色い標識が畑地に立ち、これが登山口の目印になる。巡視路は二つあり、左が安曇幹線2号線223号、右が黒部幹線586号に至るとある。

右の巡視路に入り、防獣ネット沿いに進むと、林間に立つ送電鉄塔(黒部幹線586号)に着く。さらに黄色い標識に従って巡視路を辿り、畑地灌漑用調整池を過ぎて雑木林の尾根を登る。やがて、巡視路は左の山腹をトラバースし、大きく折り返して送電鉄塔(安曇幹線2号線223号)が建つ尾根上に出る。


乙父大橋とこれから登る尾根


送電線巡視路入口(右へ入る)


送電鉄塔(黒部幹線586号)


送電鉄塔(安曇幹線2号線223号)

この送電鉄塔の周囲は樹林がバッサリ切り開かれていて、眺めが良い。東には先週登った高反山の金字形の山容が朝日を浴びている。西には谷を隔てて長々と山稜が延びる。その奥に見える鋭鋒は諏訪山前衛のヤツウチグラのようだ。今日は快晴で風もほとんどなく、絶好の登山日和。展望を楽しんでしばし休憩する。


高反山(中央)を望む


諏訪山(左奥)を望む

ここから巡視路を離れて、雑木林で藪のないすっきりした尾根を直登する。露岩が現れて尾根が痩せてくると、大天幕ノ頭の頂上に登り着く。三角点標石と山が一番さんが設置した山名標がある。尾根の途中のような山頂で、カラマツ林に囲まれて展望に乏しいが、日差しがあって雰囲気は意外と明るい。


雑木林の尾根を登る


大天幕ノ頭頂上

頂上からさらに尾根を進むと、ほどなく新しい林道に出る。頂上はいい雰囲気だったのに、この林道には少しがっかり。「平成23年度 大天莫線 上野村森林組合」との標識があり、おやっと思う。地元では「大天幕」ではなく「大天莫」と表記しているようである。

林道大天莫線を辿ると、林道上野大滝線に合流する。少し見ている間に大型ダンプが立て続けに数台通過し、この先で林道工事中のようだ。ダンプが巻き上げる土埃が酷くて閉口するが、舗装区間に入るとダンプの往来も絶え、周囲の山々を眺めながらのんびり歩く。


林道大天莫線から
林道上野大滝線に合流


林道から天丸山(左)と
帳付山を仰ぐ

林道は社壇乗越まで延びていて、深い切り通しで奥名郷側へ貫通している。切り通しのカーブミラーの支柱に取り付けられた「天丸山→」の道標があり、ここから馬道に入る。

馬道は幾度も小さな尾根を回り込み、谷を越えながら山腹をトラバースして行く。天丸山中腹の岩壁の下を通り、冬枯れの雑木林に覆われた日陰の斜面をジグザグに上がると、上武国境稜線上の馬道のコルに登り着く。ここの味のある道標は健在だ。


社壇乗越


馬道を辿る


稜線直下の登り


馬道のコル

馬道のコルから寄り道して、軽装で天丸山を往復しよう。Osprey aether 70は雨蓋を取り外してウェストポーチにすることができ、こういう場合に便利である。ザック本体はここにデポし、ウェストポーチにカメラとGPSを入れて、天丸山に向かう。国境稜線を大山方面に向かい、途中で天丸山への枝尾根に入って緩く下る。


天丸山分岐


天丸山に向かう

天丸山の岩峰の基部に着き、なかなか高い岩場を見上げる。太いロープを伝って高度感のある岩場を攀じ登ると、天丸山の頂上に着く。快晴の三連休なので、頂上にはハイカーさんがいるのではと思っていたが、誰もいなくて、ちょっと意外だ(ここまでもハイカーさんに会っていない)。


天丸山の岩場


天丸山頂上

天丸山に来たのは、これが2回目だ。前回(大山〜天丸山〜帳付山)よりも頂上の樹木が高く青々と育っている気がするのは、8年経っているから当然か。そして、前回はガスに覆われて展望がなかったが、今日は快晴なので、眺めが素晴らしい。

まず北には見渡す限りの山並みが広がり、その果てに一際高い浅間山を遠望する。浅間山の左には冠雪した北アも見える。東隣には大山の鋭鋒が聳え、その左奥に二子山、赤久縄山、御荷鉾山を望む。西には今日これから越える帳付山が黒木に覆われてどっしりとした山容を見せ、その左奥には目指すブドー沢ノ頭や滝谷山も望まれる。


天丸山から北アを遠望


天丸山から浅間山を遠望


天丸山から大山を望む


天丸山から帳付山を望む

大展望を楽しんだら戻ろう。天丸山の岩場を下ったところで、ようやくペアのハイカーさん一組とすれ違う。正午前に馬道のコルに戻る。朝食が早かった上に軽かったので、もうシャリバテ寸前だ。もやし入りラ王担々麺を作って昼食とする。これはピリ辛で美味い。

腹拵えをしたのち、帳付山に向かう。馬道のコルから急坂を上り、アセビやヒノキと雑木の混じる尾根を辿る。樹林に隠れた岩場が多く、それらを上手く巻いて道がついている。途中に小岩峰があり、行く手の帳付山や秩父側の南天山が眺められる。


馬道のコルから帳付山に向かう


途中の小岩峰から帳付山

小岩峰の先に岩場の下降があり、トラロープを頼りに注意して降りる。針葉樹林中の急登となり、帳付山の頂上に着く。樹林に覆われているが、すぐ先の頂上西端は断崖絶壁の縁にあり、谷を一つ隔てた諏訪山をはじめ、好展望が得られる。休憩していると、天丸山ですれ違ったハイカーさんも到着した。山慣れた感じのハイカーさんで、話を伺うと太田からいらしたそうである。


岩場の下降(注意)


天丸山(左)と大山を振り返る


帳付山頂上


頂上西端から諏訪山の展望

さて、一般登山道はここまでで、この先は私にとって未踏の稜線である。頂上から南斜面の樹林の中を適当に下ると、尾根筋がだんだん明瞭になって、岩場混じりの稜線歩きとなる。細い踏み跡が続き、藪はない。踏み跡は岩場を左右にかわして続いているが、突然、崖っぷちに行き当たったりする。赤テープはあっても途切れ途切れで、踏み跡が怪しい箇所もあり、最大限に「山勘」を働かせてルートを探しながら歩く。


道なき国境稜線に踏み込む


岩場のある稜線を絡む

頂上から45分程でようやく穏やかな稜線となり、あまり神経を使わずに歩けるようになる。植生も針葉樹から雑木が多くなる。枯れたスズタケの間を緩く登ると、三角点標石のあるブドー沢ノ頭の頂上に着く。


緩やかになって歩き易い


ブドー沢ノ頭への登り

頂上は冬枯れの雑木林に囲まれて展望に乏しいが、陽が差し込んで雰囲気は悪くない。テント一張分の平地はあるので、ここに泊まることにする。久し振りに自分のテントを張るので、手順を間違えたりする(^^;)


ブドー沢ノ頭頂上


頂上にテントを張る

今晩の快適な寝床が出来上がったところで、黒胡椒サラミをつまみにして、ウィスキーをちびちび飲み始める。陽が落ちる前に夕食を作り、レトルトのご飯ともつ煮をにゃんこ飯にして食べる。これは美味い。レトルトは重いけど、その分、美味いんだよね。

16時半に日没となり、シュラフに潜り込んで就寝する。風もなく気温も高めなので、上下のインナー+薄手のフリースを着込んでいれば寒さを感じない。この辺りはシカが多く、キョンという鳴き声が谺(こだま)するのを絶え間なく聴く。

夜中にはっきり感じる地震があり、ビックリする(長野県北部で震度6の大きな地震だったとは、後で知る)。さすがに少し寒くなったので、シュラフカバーを追加。外に出て、木立を透かして空を見上げると、満天の星が瞬いていた。

11月23日
天気:
行程:ブドー沢ノ頭 7:20 …滝谷山(1659m) 8:05〜8:40 …ブドー沢ノ頭 9:15〜9:35 …諏訪山(1550m) 11:20〜11:40 …ヤツウチグラ 12:05 …湯ノ沢ノ頭 13:15 …浜平 14:30 …しおじの湯 14:50

日の出と共に起床。少し風があるが、今日も快晴だ。空気が乾燥していて、テントは全く結露していない。昨日の夕食が早かったから、腹ペコだ。もやし入りラ王醬油を作って朝食とする。水はあとポリタンに0.5ℓ残っているから、下山まで足りそうだ。

シュラフ等不要な物をテントの中に残し、荷を軽くして滝谷山に向かう。すっかり葉を落とした雑木林の尾根を下り、次のピークに登ると、木立を透かして行く手に黒木に覆われた三角峰が見える。あれが滝谷山のようだ。なかなか格好良い。


ブドー沢ノ頭から滝谷山へ出発


黒木に覆われた滝谷山を望む

一旦、鞍部に下って滝谷山の登りに取り付き、コメツガに覆われて、露岩の多い痩せ尾根を急登する。帳付山と同じく奥秩父の奥山のような雰囲気がある。


滝谷山に近づく


痩せ尾根を急登

急坂を登り切ると滝谷山の頂上で、ここも味のある山名標が出迎えてくれる。頂上は樹林に囲まれているが、西面が崩壊した急斜面となっていて、神流川源流域を一望する素晴らしい展望が得られる。特に上信国境の蟻ヶ峰(高天原山)と大蛇倉山や御巣鷹の尾根が間近に眺められる。この2座は既に登っている(山行記録)。この界隈で次に登るとしたら、どの山がいいかな〜。


滝谷山頂上


滝谷山から西面の展望
諏訪山(右)を望む


蟻ヶ峰(左)と大蛇倉山を望む


ブドー沢ノ頭を望む

滝谷山頂上で展望を堪能したのち、往路をブドー沢ノ頭に戻る。テントを撤収、パッキングしてザックを背負う。水と食料が減ったから、だいぶ軽くなった。

ブドー沢ノ頭から北へ稜線を少し進み、国境稜線から分岐して諏訪山に続く尾根に入る。雑木林と枯れたスズタケの間につけられた踏み跡を辿ってひとしきり下ると、広くなだらか尾根となる。樹林に覆われて展望に乏しいが、右手には木立を透かして常に帳付山が見えている。


ブドー沢ノ頭から諏訪山へ出発


諏訪山を遠望

藪もほとんどなく、歩き易い尾根が続くが、諏訪山に近づくと一箇所、岩稜がある。ここは左から岩稜を巻いて通過する。短いが急な坂を登ると、針葉樹林に覆われた諏訪山の頂上に着く。あらぬ方向から登って来たので、頂上に数人いたハイカーさんをちょっと驚かせたようで、どこから来たのか尋ねられる。また、昨夜の地震の件もハイカーさんから教えて貰った(今回の行程で、山上では携帯は完全に圏外である)。


諏訪山への登り


諏訪山頂上

昼食にパンを食べ、下山にかかる。あとは歩いたことのある一般登山道だが、ヤツウチグラの岩場の登降は気が抜けない。諏訪山から尾根を急降下して、ヤツウチグラの基部に着く。切り立った岩場を固定ロープを頼りに登ると、社の建つヤツウチグラの頂上に着く。ここも展望抜群、360度の眺めが得られる。振り返ると諏訪山の奥に踏破した上武国境稜線の帳付山、ブドー沢ノ頭、滝谷山が眺められるのが嬉しい。


ヤツウチグラの岩場の登り


ヤツウチグラ(三笠山)頂上


ヤツウチグラから帳付山(左)
ブドー沢ノ頭と滝谷山を望む


ヤツウチグラの下り

社の裏手からヤツウチグラを下る。ロープや梯子の架かる岩場が続き、最後にアルミ梯子2連荘を下って老朽化した避難小屋に着けば、難場はだいたい終わり。雑木林の尾根を左右に絡んで緩く下ると、湯ノ沢ノ頭に着く。ここで一休みして、残りの水を飲み切る。

楢原への道を右に分け、左の浜平コースを下る。しばらく尾根を下り、すぐに山腹をジグザグ道で急降下する。谷間に入ると日影となって、まだ13時半というのに既に薄暗い。谷に沿って落ち葉がふかふかに積もった登山道を下る。水流が現れ、渓流沿いに桟道が現れると麓は近い。


湯ノ沢ノ頭


湯ノ沢に沿って下る

湯ノ沢ノ頭からの下りはさすがに疲れてきて長く感じたが、1時間15分程で麓に到着。神流川を歩道橋で渡り、浜平の集落に入る。あとは神流川の渓谷美と名残の紅葉を眺めつつ車道をポクポク歩いて、しおじの湯に向かう。


神流川を渡って浜平集落へ


浜平温泉しおじの湯

しおじの湯に着いたら、即温泉へ。天気が良かったとはいえ、この季節の山歩きのあとは体が冷えているので、湯船に浸かって温まると、もう極楽、極楽。筋肉の凝りも解れるというものである。三連休の中日だが、それほど混んでいないのもいい。ゆったりと温泉に入ったのち、桐生への帰途についた。