富士山

天気:
メンバー:T
行程:御殿場口新五合目 5:10 …大石茶屋 5:25 …次郎坊 6:25 …日ノ出館(七合目) 9:20 …砂走館(七合五勺) 9:50 …赤岩八合館(七合九勺) 10:20 …銀明水 11:45〜12:00 …浅間大社奥宮 12:05 …富士山(3776m) 12:20〜12:30 …浅間大社奥宮 12:45〜13:40 …日ノ出館 14:50〜15:00 …次郎坊 15:30 …御殿場口新五合目 16:00
ルート地図 GPSのログ(赤:往路、青:復路)を地理院地図に重ねて表示します。

木、金と東京への出張が連続するので、久し振りに横浜の実家に帰省することにした。帰省のついでに、桐生から出かけるのはちょっと遠いけれど、横浜からならば近い富士山へ日帰りで登ることを計画する。富士山には、富士登山競走や山スキーで吉田口登山道の頂上までは登ったことがあるが、最高点の剣ヶ峰は踏んだことがないので、きっちり登頂するいい機会だ。

この時期の富士山は登山者が最も多くて混雑するため、静岡県側の登山口のうち、富士宮口と須走口は一般車の乗り入れが規制されている。マイカーで行く場合は、山麓の駐車場でシャトルバスに乗り換えることになる。乗り換え自体は厭わないが、混雑はちょっと敬遠したい。マイカー規制がなく、登山者も一番少ないと言う御殿場口から登ることにした。御殿場口は標高が1440mと低く、したがって剣ヶ峰までの標高差は約2300mもあり、日帰り登頂はなかなか歩き応えがありそうだ。ワクワク。

土曜日の未明に実家を車で出発し、横浜青葉ICから東名に乗る。御殿場に近づくと、薄明の空に黒く高く富士山の輪郭が浮かび上がり、夜間登山者の灯火が点々と連なっているのが見える。大勢、頑張って登ってるね!眺めているこちらもテンションが上がる。足柄SAの食堂でしっかり朝食を摂ってスタミナを補給したのち、御殿場ICで高速を下りて御殿場口に向かう。

御殿場口の登山口は、背の低い樹林が疎らに生えた広大な火山荒野の真っ只中にある。500台分あるという駐車場は、第一駐車場がすでに満車だったが、すぐ下の第二駐車場に車を置くことができた。思ったよりかは登山者の数は多そうだ。

車の外に出ると、とっても寒い。赤城山の大沼より少し高い標高だし、砂漠のような場所なので放射冷却の効果もあるかも知れない。しかし、富士山の頂上に朝日が当たって赤く染まり出し、やがて丹沢山地の辺りから日が昇ると、あっという間に暖かくなった。太陽は偉大だなあ。バイオトイレを借りたのち、鳥居を潜って、いよいよ登山道に入る。


御殿場口より赤富士


御殿場口登山道入口

登山道は砂地に付けられているが、踏み固められているので歩きにくくはない。道の脇には白やピンクのパサパサの花を付けたオンタデの疎らな群落が広がっている。

少しの距離で大石茶屋に着く。既に開店していて、飲み物や土産物が売られている。店の前にはベンチがあり、展望を楽しみながら寛げるので、ドライブで観光に来た場合もここまで歩くのはお勧め。今回はまだ歩き出したばかりだから、休憩せずに通過する。

茶屋を過ぎると、左に登山道、右に下山専用道と道が分かれる。樹木は全く消えて、超巨大な砂山としか形容のしようがない富士山を真っ正面に見ながら砂の道を歩く。先行する登山者がポツリポツリと見える。較べるものがないのでスケール感覚が狂い、頂上への距離や標高差がすごくあるのか、ないのか、把握し難い景観だ。


大石茶屋


巨大な砂山を目指す

二ッ塚(双子山)の二つの緩やかな砂山を左手に仰ぎつつ、砂礫の道をザクザクと登る。キャタピラ付きの搬送車がガラガラと音を響かせながら降りて来た。ブル道を経由して、上の山小屋へ荷物を搬送した帰りらしい。太陽はぐんぐん高度を上げて、強烈に照りつける。Tシャツ1枚でも既に暑い。

ゆるゆると登って、次郎坊という標識のある地点に着いた。かつては宿泊所があったのかも知れないが、今は砂の斜面が広がるばかりだ。少し休憩して、水を飲む。山麓を見おろすと二ッ塚は既に下で、その向こうには愛鷹山、遠くに伊豆半島が霞んで見える。


次郎坊より富士山を仰ぐ


二ッ塚と愛鷹山(右奥)

次郎坊からは傾斜が増して、砂の斜面をジグザグに登る。上には先行する登山者が見えているが、そこまですぐのようでなかなか近づかない。標高2,000mという標識を過ぎる。陽射しは強いが、空気はさすがに爽やかだ。ひたすら砂の斜面をジグザグに登る。新六合目には小屋があるが営業しておらず、その次の六合目(標高2,830m)には標識があるだけだ。

単調な登りが続き、いつの間にか宝永山の頂上が下になる。砂礫地の道をジグザグに登ると、ようやく七合目に着いた。営業小屋があり、大勢の登山者が休憩していて、私もここで一息入れる。意外と若者のグループが多いのは、富士山の特徴か。

既に標高は3,000mを越え、下界を眺めると雲海を見おろして高度感が素晴らしい。しかし、頂上の方を眺めると、700mという標高差以上に高く見えるのは、ちょっと疲れてきたからか。まだまだ先は長い。


日ノ出館(七合目)


七合四勺付近

七合目からは斜面をトラバースして登り、七合四勺のわらじ館(休業中)を過ぎて、七合五勺の砂走館に着く。小屋の前のベンチにはたくさんの布団が干されている。今日はふかふかに乾くだろうな。

砂走館のすぐ脇には、鉄製の手摺が上と下に向かって延々と続いている。かつて、富士測候所に職員が通年で常駐していた時代は、この安全柵が冬期の登降ルートだったそうだ。冬山装備の命がけの登下山で、過去に4名の殉職者を出したという。氷雪で覆われたこの急斜面を登るなんて、想像するだけで鳥肌が立つ。

砂走館は宝永山の火口の上縁に近く、巨大な火口の底や火口壁を眺めることができる。宝永山の頂上も既に遥か下だ。


長田尾根の安全柵


宝永第一火口の火口壁

赤い砂礫の道を登ると赤岩八合の小屋に着く。ここも大勢の登山者が休んでいる。さらにジグザグの登りにかかると、道端で休憩していた山ガール風の2人組が私の後を付いて歩き始めた。こっちは結構息を切らして登っているのに、2人でおしゃべりしながら車間距離1mくらいで付いて来る。なので話の内容も聞こえるのだが、長野の人達らしい。もしかしてかなりの健脚?煽られている訳ではないが、そんな気分で歩いていたら、再び道端で休憩に入り、そのままお別れとなった。あー、ビビった(^^;)


赤岩八合館


赤岩八合館と下界の展望

八合目の見晴館(休業中で、建物は崩壊している)の前を通り、赤茶けた溶岩の尾根を回り込む。尾根の鼻には「長田尾根登山路建設記念碑」と、大智禅師の「富士山」と題する下記の漢詩を刻んだ遭難慰霊碑がある。

巍然独露白雲間
雪気誰人不覚寒
八面都無向背處
従空突出与人看

後日、ネットで検索すると、次のように読み下すらしい(参考サイト)。

巍然(ぎぜん)として独露(どくろ)す白雲(はくうん)の間(かん)
雪気(せつき)誰(たれ)人(ひと)か寒(かん)を覚えざらん
八面(はちめん)都(すべ)て向背(こうはい)の処(ところ)無(な)し
空より突出(とつしゆつ)して人に与えて看せしむ

登山道は、最後の胸突き八丁にかかる。頂上はすぐ上に見えるのだが、なかなか近づかない。既に5時間半も歩いているし、特に息苦しくはないが空気が薄いせいか、急に足が重くなる。小さな雪渓を眺めながら、ザクザクの急斜面を一歩一歩登る。1時間程かかって、ようやくお鉢の一角の銀明水の鳥居に登り着いた。


山頂への胸突き八丁


銀明水の鳥居

鳥居を潜った所が銀明水の小鞍部で、眼前に大内院(噴火口)がぱっくりと大きく開け、火口壁に雪がべったり残っているのが見える。ここの小屋(頂上銀明館)は営業していない。鞍部の真ん中にある小さな井戸が銀明水のようだが、水はなさそうな雰囲気。お鉢回りの登山者が大勢通るし、夜間登山で寝不足なのか、ひっくり返って寝ている人も多い。私も腰を下ろしてしばらく休憩する。歩き出してから約6時間半。単調で歩き易い道とはいえ、標高差2300mはさすがに応えた。ここから剣ヶ峰まで、あとちょっとの頑張りだ。


大内院(噴火口)と白山岳


銀明水

銀明水から小さなピークを一つ越すと、富士宮口の頂上に着く。浅間大社奥宮と郵便局、頂上富士館があり、富士宮口の登山道から続々と登山者が登って来て、活況を呈している。ここでゆっくりするのは帰りにして、まずは剣ヶ峰に向かう。


富士宮口登山道頂上


浅間大社奥宮

広い砂利道を辿り、最後は馬ノ背の急坂を登る。この坂はつるつるで足がかりがなく、脇の手摺を摑んで登るしかない。人通りが格段に多いのに、ここに階段がないのは不便だし不思議だ。それとも、作ってもすぐに崩れてしまうのかな。


剣ヶ峰に向かう


馬ノ背の急坂

剣ヶ峰の頂上は富士山測候所(これは旧称。2004年秋から無人となり、富士山区別地域気象観測所という名称に変わった)の建物に占拠されている。建物に沿って階段を登ると、二等三角点と「日本最高所富士山剣ヶ峰」と刻まれた標石がある。登山者はこの標石に並んで記念撮影をするのがお決まりのようで、大勢が順番を待っている。私はここの記念撮影は省略、三角点を手のひらでペシッと叩いて、これで富士山登頂だ\^o^/


剣ヶ峰へ階段を登る


剣ヶ峰の二等三角点


剣ヶ峰で記念撮影中の登山者


富士宮口頂上を見おろす

山頂からの展望は、一直線に落ちる巨大斜面の遥か下に山麓を見おろして、高度感が素晴らしい。測候所の奥に櫓を組んだ展望台があり、順番を待って登ってみる。あちこちに湧いた積乱雲で遠くの山は隠れがちだが、八ヶ岳や南アルプスの稜線が低い所に横たわって見える。また、駿河湾も一望だ。好展望の山は数あれど、この高度感・スケール感は富士山が唯一無二ではないかと思う。


剣ヶ峰より白山岳を望む


剣ヶ峰展望台より駿河湾を望む

展望を堪能したのち、下山にかかる。頂上での記念撮影の待ち行列は階段の下まで延びていた。お鉢巡りをする元気と余裕はないので、往路を戻ることにする。馬ノ背では、手摺に頼らず急坂にチャレンジして、敢えなく滑落する元気な若人が続出していた(^^;)

浅間大社奥宮では、タキシードとウェディングドレス姿のカップルが、10数名の参列者の祝福を受けて結婚式を行っていた。新郎新婦も参列者もここまで登って挙式とは、恐れ入谷の鬼子母神。末永くお幸せに♥。それにしても、富士山にはいろんな人がいるなあ。

奥宮の脇の広い平地の一角に腰を下ろし、噴火口を眺めながら昼食にする。まずは缶ビールを開ける。3,700mの高所でのビールは格別♪。次に、お湯を沸かしてラーメンを作る。富士山頂では気圧の関係で沸点が低いので、ラーメンがどんな感じで茹で上がるのか、試してみたかったのだ。結果、若干の生煮え感はあるものの、一応は食べられた。

昼食後、奥社でお守り、山小屋でペットボトル飲料(500円 @_@;)を購入して、銀明水から下山する。山麓を俯瞰すると、御殿場口の駐車場が遥か下に白く小さく光っている。さーて、あそこまで下りますよ。


銀明水より下る


御殿場口と御殿場市街を俯瞰

気息奄々と登って来る大勢の登山者とすれ違いながら、胸突き八丁を快適に下る。七合目の日ノ出館で、登りコースと下り専用の砂走コースが分かれる。ここで、スパッツを付け、砂走に入る。砂埃を吸い込むのを防ぐため、マスクをして下る登山者も多い。私はマスクは持って来なかったが、あった方が良い。

宝永山の頂上に向かって、最初は砂の斜面をトラバースする。砂走とは言っても大きな石もゴロゴロあるので、踏まないように避ける。やがて、富士宮口に向かう道を右に分け、宝永山の山腹を斜め左に下る道に入る。この辺りから砂も細かくなり、まさに海辺の砂浜を歩く様な感じになる(引き続き、大き目の石には注意)。着地の衝撃がふんわりと受け止められるので、踵を砂地に食い込ませてガシガシ下れる。新雪パフパフの斜面をスキーで滑っているようだ、と言えば少し大げさだが、それにかなり近い。後方に砂煙が猛烈に巻き上がるので、他の登山者を追い抜くときだけはスピードを緩める。


下り六合付近から宝永山


大砂走りを一直線

途中から一段と傾斜が増して、広大な砂の斜面の真ん中をダダダーッと下って行く。振り返ると、後続の登山者が巻き上げる砂煙が幾筋も棚引いて、なんとも壮観。思わず笑ってしまう。

次郎坊まで降りれば砂走の主要部は終了で、あとは少し固くなった砂の道を緩く下って行く。大石茶屋では、登山者が身体やザックに付いた砂埃をはたきで落としていた。私も細かい砂にまみれて、手の指の間などがザラザラ。茶屋では洗い用の水も売っているが、駐車場までまだ少し砂道があるので、洗うのはあとにする。


砂煙を蹴立てて下る登山者


大石茶屋より富士山を振り返る

駐車場に到着すると、御殿場市?が観光PRのため地元名水の給水サービスをしていたので、ありがたく飲ませて頂く。車に戻ってザックを降ろすと、うわー、すごい砂埃まみれ。ポリタンの余った水で顔を拭い、身体を拭く。登山口には水道がないので、車に水を用意しておくのが良いかも。

結局、御殿場口〜富士宮口頂上までの登り約7時間に対して、下りは僅か2時間半。砂走りが如何に速くて(砂埃を別にすれば)快適か、目一杯体験しました。

実家に無事下山の連絡を入れたのち、JR駿河小山駅近くの「ふじみセンターゆったり湯」に向かう。ここはお代300円で、混雑もなく穴場。汗と砂埃をさっぱり落として、足の筋肉をもみほぐす。帰りは東名が渋滞しているようなので、R246を走って実家に帰った。