白岩山神社
今年2月、Mさんが「やまの町桐生」に書いた氷室山のページで、白岩山神社の記事を読んだ。白岩山神社は熊鷹山東面の岩峰上に鎮座し、天然檜に囲まれた岩峰は神が降臨した磐座(いわくら)に相応しい神域の雰囲気があるが、現在は訪れる人も殆どなく、白岩山神社に至る道は廃道に等しいと言う。
周辺の三滝や熊鷹山、氷室山は何回か訪ねたことがあるが、白岩山神社のことはMさんの記事を読むまで全く知らなかった。これは非常に興味を惹かれる。是非、訪問してみたい。と、かねてからMさんに希望を伝えていたところ、骨折のリハビリにもちょうど良い、ということで案内頂けることになり、白岩山神社に同じく興味津々のKさん、安蘇山塊が地元で詳しいNさんと共に探訪してきました(Kさんの記事はこちら)。
桐生を車で朝8時前に出発し、老越路峠、近沢峠を越えて大戸川流域の作原に向かう。近沢峠越えの車道は近年ずっと工事中で、現在は日曜日を除く8時〜17時が通行止となっている。近沢峠を通れば桐生から作原まで半時間足らずであるが、通行止の場合は足利と田沼を経由して2時間以上の大遠回りとなる。
田沼から車で来たNさんと作原で合流し、蓬萊山の辺りで車1台に乗り換えて大戸川の上流に向かう。この時期の熊鷹山は人気があり、車道終点の熊穴橋の駐車スペースは満杯だった。熊穴橋から少し戻った所に車を置いて、白ハゲ口まで渓谷沿いの林道を歩く。ちょうど新緑が一番眩しい時で、空も青くスカッと晴れて爽やかだ。白ハゲ口までの林道は、コンクリによる簡易舗装がされている。白ハゲ口に着くと、東屋の前の広場まで一面コンクリで覆われていた。ここは、以前はテントを張ってみたいような草地だったのに残念。WCもあるが、使用不能になっている。
東屋の壁には古くて掠れかかった手書きイラスト風の周辺案内図があり、なんと、白岩山神社と、そこに通じる歩道が描かれている。かつては一般的なハイキングの対象になっていたらしい。
白ハゲ口から三滝への登山道に入り、最初に左から流れ込む大きな支流が白ハゲ沢だ。登山道は白ハゲ沢に入り、少し上流の木橋で白ハゲ沢を渡る。
熊鷹山への登山道に入る予定が、ここでちょっとルートを間違って、沢沿いに上流に向かう踏み跡(木の枝で通せんぼされていた)に入ってしまう。正規のルートは、山のコースの途中から分岐するようだ。以前、逆コースを歩いて熊鷹山から白ハゲ沢に降りたことがあるのだが(山行記録)、分岐点がどこだったか全く忘れてました(^^;)
白ハゲ沢を遡って行くと小滝も現われ、沢登り気分で面白いのだが、沢通しでは時間がかかるので、左岸の斜面を這い上がって熊鷹山への登山道に出た。
登山道とはいっても整備された道ではなく、所々に赤テープがある程度の踏み跡だ。急斜面の高い所をトラバースしているので、枯れ葉が積もって足元が不安定になる季節には高度感が出てちょっと怖いかも知れないが、今日は問題ない。登山道が沢身に近づくと、水流と新緑を眺める楽しい道となる。
やがて朽ちた木橋が現われ、その下で白ハゲ沢を渡ると曲沢の出合に着く。白岩山神社へは、この出合から正面の尾根を真っすぐ登ることになる。急登に取りかかる前に休憩し、軽く腹ごしらえして鋭気を養う。
正面の尾根に取り付くと、道は全くないが藪もなく、最初のうちは傾斜もさほどではないので、周辺の新緑やミツバツツジの紫色の花を見ながら順調に高度を上げて行く。
やがて尾根上に帯状の岩場が現われて、行く手を遮る。Nさんを先頭に、右側から立ち木を頼りに岩場を越える。まだダブルストックをついているMさんは膝が十分に曲がらないので、このような岩場の登りには少し苦労しているようだ。Kさんは1年前ならばここは難しかったかも知れないが、最近は岩場や急斜面にもすっかり慣れてクリアする。さて、自分が取り付いてみると、うゎっ、結構危ない所を登っているなあ(^^;)
岩場を越えると、再び歩き易い尾根上の登りとなる。木の間を透かして行く手の尾根上部を眺めると、新緑の淡い緑の中に針葉樹の濃い緑がこんもりと盛り上がった所が一か所ある。あそこが白岩山神社らしい。石祠か灯籠の台座らしき石組みを過ぎると岩尾根となり、いよいよ白岩山神社への最後の関門が現れる。
岩峰を仰ぎながら、非常に急な斜面を四つん這いで登って行く。危ないので、先に登ったMさんとNさんにロープを垂らして貰い、Kさんと私はそれを頼りに登る。18mのロープでぎりぎり届く距離だった。登り着いた所は岩峰の基部で、右側は断崖絶壁となっていて、下を覗き込むとクラクラする。
岩峰には古くて太い鎖がかかっている。この鎖は内部まで錆が進行している可能性が高く、荷重をかけて頼るのは危険だ。Mさんが最初に登り、残りのメンバーはトップロープで確保して貰って登った。
鎖を登るのは約2mで、あとは僅かな登りで岩峰の頂上に立った。頂上は細長く、10人くらいは休憩できる広さがあり、四方を天然檜と絶壁に囲まれている。奥の高みに石垣があり、その上に白岩山神社が建っている。
神社を詳しく調査する前に、まずは昼食。例によってビール少々で乾杯し、Kさんがたくさん持ってきてくれたつまみでウィスキーをちょっと飲む。Nさんは次々に出て来る飲食物を見て、そんなに食べるんですかとちょっとあきれ顔(^^;)。皆さんはこれで満腹となったが、私は主食にラーメンを作って食べた。ご馳走様でした。
白岩山神社は、石祠を木造の上屋が覆っていて、ひび割れた鰐口が一つ掛かっている。鰐口の表には「奉納 白岩山神 上作原大戸 文久三年三月吉日」と刻まれている。かつては山麓の村人が参拝し、鰐口を打ち鳴らしたのだろう。石祠の屋根は地震でもあったのか、外れて手前に落ちていた。石造りの屋根は重く、上屋が邪魔になって、元に戻すのは難しい。石祠の台座には「願主 上下 作原 村中」と刻まれている。
神秘的な白岩山神社は去り難いが、そろそろ出発しよう。立ち木を摑んで鞍部に一旦下る。両側は急峻な谷となって切れ落ちており、このような山腹に突き出た岩峰が何故出来たのかも不思議の一つだ。
鞍部からは、木立を手掛かりに急な斜面を登る。ここにも踏み跡や目印は全くない。明瞭な尾根ではないので、上から降りて白岩山神社に向かう場合は方向を定めるのが難しいだろう。
急斜面から小さな尾根(茶立尾根)に登り着いて、ようやく一息つく。尾根上の少し先のピークには石祠がある。木の間から熊鷹山が間近に眺められ、周囲には終盤を迎えたアカヤシオが咲き、ピンクの花びらを散らせていた。
石祠のピークから熊鷹山〜十二山間の主稜線までは一投足だ。主稜線上には疎らな雑木林の下に気持ち良い笹原が広がって、縦走路が延びている。Mさんが持参していた熊鷹山周辺の古いパンフレットには、茶立尾根を下って白岩山神社に往復するコースが熟練者向けとして記載されている。しかし、現在では茶立尾根の入口には道標の類は全くなく、石祠から先には踏み跡もないので、こちら側から白岩山神社を目指すのは熟練者でも道に迷う可能性が高い。
笹原で休憩しながら下山路について相談した結果、白岩山神社探訪という目的は達成して満足できたので、熊鷹山には立ち寄らず、最も楽な井戸尾根を下ることにする。十二山の方へ暫く縦走路を辿り、道標に従って井戸尾根の下降点のピークに登る。
井戸尾根は緩い尾根で道も良く、歩き易い。木の間から自然林の新緑に覆われた大戸川上流の尾根と谷、それらを取り囲む宝生山あたりの主稜線が望まれる。桐生周辺の山では、この辺りが一番自然が残っているのではないかと思う。
井戸尾根の末端はトラロープが現われて少し急な下りとなり、三滝を高巻いて宝生山・氷室山に向かう登山道の途中に降り着く。
登山道を下流に向かうと、山のコース(白ハゲ口)と川のコース(三滝)が分岐する。川のコースを降り、展望台の岩場から三滝を見おろした。新緑に覆われたV字の谷を一条の水流が流れ落ちているのが眺められるが、三滝の全貌は見えない。
次にタイコオロシの滝に立ち寄った。下の写真はタイコオロシの滝のすぐ下にある釜で、滝の本体はこの奥で左から落ちている。滝の手前に立つと、ドンドン…という低い唸りが聞こえるポイントがある。滝の音が周囲の岩壁に反響して、太鼓の音のように聞こえるらしい。
さらに川のコースを下って、山のコースに合流する。ここにある道標には、相変わらず「田沼駅33km」と書いてあった。そんなに歩けませんって(^^;)。滝見物などでのんびり歩いたので、白ハゲ口を経由して駐車地点に戻ったのは17時を回っていたが、日の長い季節になったので、まだまだ明るいうちに桐生に帰り着いた。