鬼怒沼〜黒岩山
大清水から物見山、鬼怒沼、鬼怒沼山、黒岩山を周回するルートを歩いて来ました。日の長い季節には日帰りもできるようですが、今回は久し振りにテント泊の山登りがしたくなり、2日をかけてのんびりしてきました。
テントで泊まるとなると、テン場の選定が重要。「群馬山岳移動通信」の黒岩山の記録を参考にさせて頂いて、小松湿原入口の水場にテントを張りました。ここは樹林の中で展望はないですが、整地された小平地があり、快適でした。
鬼怒沼と黒岩山頂上で展望が開けたほかは、オオシラビソなどの樹林の中、緩くて広い尾根を延々と辿り、鬼怒沼周辺を除けば行き合う登山者もまれで、静かな山旅でした。
大清水の一番奥の駐車場に車を置く。3連休の初日だが、朝早いせいか、駐車やハイカーさんの数はまだ少ない。少し戻り、大清水休憩所の横から大清水橋を渡って、根羽沢沿いの林道に入る。こちらに来るハイカーさんは皆無だ。
今回、新しい登山靴(zamberlan Pelmo GT)を試運転なしで履いていて、足に合うか少し心配していたが、今のところ快調だ。ようやく陽が射し込み始めた林道を小一時間歩くと、林道の終点に到着する。右手には根羽沢鉱山跡のズリの斜面がある。車止めのように置かれた3つの岩の間を通って、山道に入る。「鬼怒沼4.8K←→大清水1.2K」と書かれた道標がある。
笹が良く刈り払われた道を進み、湯沢を渡ると、暗く湿ったアスナロ林の尾根の急な登りとなる。テント泊装備(約14kg)を背負っているので、ゆっくり登る。
やがて明るい尾根となり、ところどころで展望も開けて、燕巣山や直線的な稜線が特徴の四郎岳が見える。振り返ると大清水と、その背後に荷鞍山の三角形のピークが望まれる。
最初は晴れていたが、高度が上がるにつれて雲が多くなり、風も冷たい。ポツポツと始まった紅葉も、日光が当たれば映えるのだがなあ。木の間から燧ヶ岳や至仏山を垣間見るようになると、頂上へはあと一踏ん張りだ。
物見山の頂上は樹林に囲まれて展望には恵まれないが、北側が少し開けて、思ったよりは明るい。ここまで来れば、今回の山行の大きな登りは終わりだ。
少し休んだ後、鬼怒沼に下る。この道も笹がきれいに刈り払いされている。林の間に鬼怒沼の湿原がちらちら見えて、期待が高まる。奥鬼怒温泉から鬼怒沼に登って来たハイカーさんが多いようで、物見山に向う人ともたくさん行き合う。いくつか小沢を渡ると鬼怒沼の北端のT字路に出た。
鬼怒沼は枯れ草原が広がって、木道がその中へ伸びている。爽快な風景だ。木道を歩いて行くと、一番大きな池塘(金沼)があり、周囲の山を水面に映している。
鬼怒沼を南端までゆっくり往復する。途中、木道の脇のベンチに腰を掛け、お湯を沸かして棒ラーメンの昼食をとる。景色を眺めてのんびり過ごしていると、段々青空が広がり、湿原の枯れ草も明るい狐色に輝き始めた。いい眺めだねー。ここから見る根名草山は、向って左に力こぶのようなピークを従えた立派な山容で、登ってみたくなった。
昼食を終えて、鬼怒沼の北端の方に戻る。湿原の途中から右に分岐する木道を辿ると、突き当たりの樹林の中に鬼怒沼巡視小屋がある。内部は奇麗だが、泊まる場合は土間に寝ることになりそうだ。
小屋の裏手から鬼怒沼山に向う。オオシラビソの樹林の中を登り、最初の2141m峰は右を巻いて、鬼怒沼山との鞍部に下ると、赤や黄のテープが鬼怒沼山への登り口を教えてくれる。踏み跡を辿ると、頂上に到着する。ここまでは登る人が多い。
鬼怒沼山の頂上には三等三角点があるが、周囲を樹林に覆われて、展望はあまりパッとしない。南は開けて日光白根山が良く見えるが、鬼怒沼は間に山があって見えない。なぜ、鬼怒沼山という山名なのか、ちょっと謎。
鬼怒沼山から分岐まで戻り、尾瀬への縦走路に入る。鬼怒沼山の西斜面を巻いて、オオシラビソに覆われた尾根を下る。行く手には緩く上下する稜線が横たわり、その奥には黒岩山のゆったりとしたピークが遠くに見える。
一旦、鞍部に大きく下って、登り返す。左手には物見山の奇麗な三角錐のピークがすっくと聳えている。しばらく笹の混じる明るい尾根を登るが、登り着くと再びオオシラビソ林の中で、高原のような緩い稜線歩きになる。
ところどころの樹林の切れ間から赤安山や女峰山、背後の鬼怒沼山を見たほかは、ひたすら樹林の中の道が続く。まだ葉が青い新しい倒木が多いのは、9月の台風FITOWによるものだろうか。
ほぼ平らな稜線が続いたあと、やがて下り始めたので注意して見ていると、「小松湿原」と書かれたプレートが左手の木に架かっているのを見出だす。直ぐ下に湧き水があり、その先の樹林の中に2、3張り分のテントサイトがあった。まだ誰も来ていない。
早速、テントを設営する。居心地良さそう。時間はまだ14時と早いので、小松湿原に行ってみようかとも思ったが、道はなく、標高差も100m近くあるので止めて、乾き物をツマミにウイスキー水割りをチビチビ嘗め始める。その次は舞茸バター炒め、ソーセージ厚切ステーキ炒めを肴に飲んでいるうちに、おやもう17時に近い(^^;)
夕食はレトルトのキーマカレーを美味しく頂き、シュラフに潜り込む。最初は冷え込んだが、夜半から霧が出て放射冷却が弱まったせいか暖かくなって、ぐっすり眠れた。
のんびり起床し、朝食にレトルトの赤飯、豚汁を食べる。これで荷物はだいぶ減ったはず。テントを畳み、水場で2リットルポリタンを満たして出発する。2043m峰を緩く登って越えると、行く手に黒岩山が悠然と聳えている。
鞍部に下って、黒岩山への斜面を緩く登ると黒岩清水がある。テントサイトもあるが、湿っぽく、雨が降ったら浸水確実なので、あまり泊まりたくない場所だ。さらに登ると「尾瀬沼方面 5時間←黒岩山→奥鬼怒方面 3時間10分」と書かれたプレートのある地点に着く。赤テープの付いた踏み跡が右に分岐して、黒岩山の頂上に向かっている。
踏み跡に入ると、最初は山腹をトラバースして行くが、やがて左へ斜面を登って、稜線に出る。樹林が密に繁茂し、踏み跡がなければ到底歩けそうにない。ツツジ類の紅葉を見ながら登り詰めると、黒岩山の頂上に出た。
頂上は小さな平地に露岩が点在して、遠くから見たなだらかな山容からは平らな場所を想像していたが、南北に細い稜線上にある。北が樹木で遮られる他は360度の展望で、期待以上の眺めの良さに感動する。
西から北にかけては武尊山、至仏山、燧ヶ岳、中ノ岳、越後駒ヶ岳、荒沢岳などが見え、北から東にかけては会津駒ヶ岳、台倉高山、帝釈山などの山波が延々と連なる。南には日光の山々が女峰山から太郎山、男体山、高薙山、白根山まで連立する。燕巣山や四郎岳、物見山の三角形のピークも頭を出している。
どちらを見ても深い樹林に覆われた山また山、谷また谷。人工物は尾瀬の手前を送電線が1本横切っているくらいで、後は見えない。本当に奥深いところにある山だ。
紅葉は頂上がピンポイントで鮮やかだ。これから麓に向かって降りて行くのだろう。
去り難い頂上だが、先があるので元の道を戻る。縦走路に戻ると、大きなザックを持った男性が休憩していた。挨拶して話を伺うと、引馬峠から来られて鬼怒沼に向かうとのこと。引馬峠からここまでは藪山のエキスパートコースで、単独で歩ける人はそう多くないよなー、と思ってお別れしたが、実は日光連山ひとり山歩きの烏ケ森の住人さんご本人であったことが、後日判った。うーむ、びっくり。
黒岩山分岐から、樹林の中の長く緩い下りが赤安山との鞍部まで続く。そこからちょっと急な登りになり、赤安山は頂上付近を巻いて、袴腰山との鞍部に下って行く。鞍部には「尾瀬沼方面 3時間 ←赤安清水→ 奥鬼怒方面 5時間10分」という道標があり、居心地よさそうなテントサイトになっている。水場は道標の後ろを下ると、下を沢が流れているのが見える。しかし、最後はトラロープ頼りの滑りやすい急な崖なので、水を汲みに行くのは止めておく。腹が減ったと思ったら、もう11時だ。ここで昼食にしよう。棒ラーメンにナメコ1パックを入れたら、さすがにどろどろになった(^^;)
赤安清水からは、袴腰山の急な北斜面をトラバースする。なかなかアップダウンがあり、笹を切り開いた区間が歩きにくい。振り返ると、黒岩山がはるか遠くに見える。だいぶ歩いて来たなあ。荷物が肩に食い込む。袴腰山を巻くと、再び単調な下りになる。笹原になって、一瞬だが燧ヶ岳の頂上が見える。尾根を送電線が横切る箇所には電発記念碑があり、石碑に「只見開発 竣工記念 昭和三十四年五月」と刻まれている。
笹原の道は良く整備されているが。刈り払われた笹が道の上に積まれたままになっているのを見ると、ここを歩く人はあまり多くはない気がする。
電発記念碑からすぐで、小淵沢を経由して大清水に下る道と、小淵沢田代を経由して尾瀬沼に行く道の分岐に着く。時間と体力の余裕があれば、尾瀬沼を経由して大清水に帰ることも考えていたが、2時間は余分にかかるし、さすがに疲れて来たし、せっかく静かな山を歩いて来て、最後に尾瀬沼の喧噪に突っ込んで行くこともなかろう、と理屈をつけて、大清水に下ることにする。
こちらの道も良く刈り払いされている。最初はいくつかの水流を跨いで緩く下るが、やがてダケカンバなどの樹林の中を傾斜を増して下り始める。あちこちに錆びた太いワイヤーが放置されているところを見ると、かつては林業が盛んな場所だったようだ。
やがて急な下りとなり、ガレた小沢に出る。ここは小沢を下ると「小淵沢田代入口」と書かれた古い道標が建つ林道に出た。
あとは林道をテクテク歩いて大清水に戻る。一ノ瀬橋を渡ると急に賑やかな話し声が聞こえて三平峠からの道と合流し、大清水に到着した。さすがに駐車場は満杯だ。このあたりまで紅葉が降りて来るのは何時頃だろうか。
駐車料金(1日でも2日でも500円)を清算し、帰宅の途に付く。途中で鎌田の寄居山♨に立ち寄る。3連休でもここは穴場のようで、ゆったりと湯船に浸かれた。